資料から読み解く、ジョージ・ルーカスのエピソード7案⑤:ディズニーのSWが受け継いだルーカス案

2023/04/02

映画 論考&解説

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全五回の記事の最終回! 今までまとめてきたジョージ・ルーカスの「エピソード7」案について振り返りつつ、その要素がいかに現行のディズニーのスター・ウォーズ(正史)の映像作品に受け継がれてきたのかについて述べる。今までの記事の「補足」と「まとめ」、「あとがき」のようなものだ。

ルーカス指揮下の制作と、彼の失望

第一回の記事では、ルーカスがエピソード7およびシークエル三部作の草稿をある程度まで制作した過程と、ディズニーが一部を破棄してルーカスが大きな失望を抱いたことについて概要を述べた。ただし、この一連の記事を読んでもらえれば分かるように、全てのルーカス案が破棄されたわけではない。補足として、ルーカスの「エピソード7」案が破棄された後にも、ディズニーで働き続けたルーカス案の制作陣を紹介しよう。

まず、ルーカス案のサポートを行っていた脚本家のローレンス・カスダン。彼はマイケル・アーントの離脱後に『フォースの覚醒』と『ハン・ソロ』の脚本家を務めた。エピソード7制作にコンセプトアーティスト、アドバイザーとして加わっていたデイヴ・フィローニ。ルーカスの愛弟子である彼は、ディズニー買収後に勢いを増し、今では『マンダロリアン』や『アソーカ』などのドラマを統括する立場にある。ルーカスフィルムの売却までの道筋を立てたキャスリーン・ケネディ社長。ルーカス案の破棄にも関わった彼女だが、今でもルーカスフィルムの社長を務め、全体を監督している。コンセプトアーティストのダグ・チャン。プリクエル三部作を支えた彼は、シークエル三部作でも大車輪の活躍を見せ、現在ではルーカスフィルムの副社長である。設定を管理したパブロ・ヒダルゴ。新設されたストーリーグループの重鎮として、日々スター・ウォーズ作品を監修している。

上記以外にも、ILMやルーカスフィルムの内部の人間を中心に、ルーカス案に関わった大勢の人々が、そのままスター・ウォーズに関わり続けている。「ディズニーがルーカス案を受け継いだ」というよりも、「ルーカス案に携わっていた個々人が受け継いでいる」と言った方がより正しいかもしれない。

ウィルズとの共生、フォースのバランス

第二回の記事では、ミクロな生命体のウィルズと、ルーカスがエピソード7で取り上げようとした「共生」というスター・ウォーズのテーマについて述べた。このウィルズはルーカス案の根底を成す概念だったが、残念ながらディズニー以降のスター・ウォーズ正史にこの設定は導入されていない。それどころか、銀河史の執筆者であるウィルズを「茶化す」小説まで発売されている¹。ただし、ルーカスが描こうとした「共生」は、正史の映像作品にも受け継がれている。

ルーカスがウィルズとミディ=クロリアンを通じて描こうとした「生態系における共生」は、『最後のジェダイ』でも描かれた。ルークの教えの中で、レイは「生と死と腐敗。暖かさ、寒さ。平和と暴力」、その間にある「バランスとフォース」を感じた。第二回で述べたが、「共生」と「バランス」はルーカスの中で切り離せない類義語である。つまり、このシーンは、生態系での共生を描いている。

また、ルーカスがジェダイの霊体化を通じて強調しようとした「時代を超えた共生」の重要性も正史で描かれている。ルーカスの愛弟子フィローニが監督したアニメ『反乱者たち』では、主人公のエズラ・ブリッジャーが「はざまの世界」へと迷い込む。そこは「フォースの神」が管理する超空間であり、あらゆるスター・ウォーズ作品の登場人物の声が聞こえ、時代を超えて彼らが繋がっていることが示された。『スカイウォーカーの夜明け』でも、似たような描写がある。パルパティーンとの戦いのさなか、くじけそうになったレイを過去のジェダイ(の霊体)が勇気づける。レイには、過去のジェダイが共にあるのだ。時代を超えた共生により、ジェダイは勝利する。

JJエイブラムス監督は、『スカイウォーカーの夜明け』の制作前にルーカスとフォースの性質や映画について語ったことを明かしている[ソース]。そこでは、ミディ=クロリアンについての話もあったそうだ。一見『スカイウォーカーの夜明け』とミディ=クロリアンは無関係に見えるが、第二回の記事で述べたように、ミディ=クロリアン、ウィルズ、共生は不可分の関係だ。JJエイブラムスがミディ=クロリアンの話を通じて、時代を超えた共生についての着想を得たと考えても不自然ではない。

ミディ=クロリアンという設定が『EP1/ファントム・メナス』に登場したときに、多くのファンが反発した。ミディ=クロリアンと密接な関係にあるミクロな生態系やウィルズを描こうとしたルーカス案の設定は、スター・ウォーズをヒットさせたかったディズニーが嫌った要素の一つだろう。設定は現状では葬り去られたままだが、それでも「共生」というテーマは、スター・ウォーズの正史にも受け継がれている。

「選ばれしもの」レイア、悪役ダース・モール

第三回の記事では、ルーカス案の冒頭がエピソード7の数年後であること、ダース・モールがメインの悪役だったこと、レイアが選ばれしものであったことについて述べた。いずれもディズニーのシークエル三部作(EP7~EP9)で採用されなかったが、その遺産は確実に受け継がれている。

まず、『EP6/ジェダイの帰還』の数年後を物語の舞台にするという案は、ドラマ『マンダロリアン』へと受け継がれている。同作では、『EP6/ジェダイの帰還』の5年後を舞台に、ルーカス案にあった「敗戦後も諦めないストームトルーパー」や「銀河の混乱につけこむギャング」、「ジェダイを再興しようとしているルーク」が描かれている。ルーカスの愛弟子であるフィローニが、ルーカスのアドバイスを受けながら『マンダロリアン』を作っていることを考えると当然のことだ。

また、悪役のダース・モールは、シークエル三部作にこそ登場しなかったものの、『ハン・ソロ』で、スクリーンへと帰還を果たした。しかも、メインの悪役だ。「ギャングのゴッドファーザー」という設定も受け継ぎ、正史においてモールはクリムゾン・ドーンのリーダーとなっていた。この設定は、ディズニー買収後に作られたアニメ『クローン・ウォーズ』シーズン7でも強化されている。

レイアについては「選ばれしもの」という描かれ方こそされなかったが、ディズニーのシークエル三部作における重要キャラクターである。『最後のジェダイ』や『スカイウォーカーの夜明け』では、ルーカス案と同じように、レイアもフォースの訓練を受けていることが明かされた。また、「新共和国を再建し最高議長となる」という案も、キャリー・フィッシャーの不慮の死さえなければ、描かれた可能性はある。また、第二回でも述べたが、小説『ブラッドライン』には、もともとエピソード7のキャラだったランソム・カスタルフォも登場している。ここでは、レイアの政治的な窮地が描写された。

ルーカス案は破棄されたが、そのアイデアは再利用されている。それも、スピンオフ映画やドラマ、アニメと広がり続けるスター・ウォーズ世界の中で。これだけの派生作品を展開できるのは、ひとえにディズニー社の資金力のたまものだ。ディズニーはルーカス案を破棄したが、そのディズニーのおかげで、ルーカス案が息づく余地が生まれている。

女性ジェダイ主人公、スカイウォーカーの末裔、隠遁したルーク

第四回の記事では、ルーカスのエピソード7案においても、女性ジェダイが主人公となり、ハンとレイアの息子の闇堕ちが描かれ、ルークが隠遁したことを紹介した。そこでも指摘したが、『フォースの覚醒』とルーカス案は多くの類似点を持つ。制作陣も案を引き継いでいることを認めている[ソース]。

また、賛否両論を巻き起こした『最後のジェダイ』のルークの描写も、ある程度はルーカス案に沿っている。ルーカスも「ジェダイ・オーダーの再建に失敗して、精神的に<暗い場所>にいる」ルークを構想していた。この事実を無視した批判は、不当であることに注意したい(もっとも物議を醸している描写は、その部分だけではないが)。

さらにルーカスは、自身の「エピソード9」の結末にてジェダイ・オーダーの再建を描くつもりだった。これは正史版EP9『スカイウォーカーの夜明け』では見られなかったが、製作途中で解雇されたコリン・トレヴォロウ版EP9『Duel of the Fates』では見られる。そこでは、フィンとローズがジェダイ聖堂を再建し、レイが帰還するシーンがあった。ややこしいが、ディズニー下の制作でも、ルーカス案通りジェダイの再建を描くことが検討されていたわけだ。

以上からわかるように、ディズニーの正史版シークエル三部作はルーカス案から多くの要素を引き継いでおり、「全て」が廃棄されたわけではない。それどころか、ルーカス案を土台にして制作されたと言えよう。ルーカス自身は納得していなかったが、彼のエピソード7案はディズニーに無視されたわけではない。

終わりに

ジョージ・ルーカスの「エピソード7」案の全貌が、日の目を見ることはないだろう。ルーカス案の一部を破棄してシークエル三部作を制作した手前、比較されることをディズニーは嫌うはずだ。そんな状況だからこそ、この記事でルーカス案の一端を掴んでいただければ嬉しい。

スター・ウォーズを生み出した創造主がジョージ・ルーカスである以上、彼の世界観は作品に影響を与え続ける。今後のスター・ウォーズにも、ルーカス案の要素は受け継がれていくだろう。スター・ウォーズを楽しんでいく上で、頭の片隅に置いておいても損はない。

最後に、本記事に欠かせない参考図書だった『The Star Wars Archives: Episodes I–III, 1999–2005』を紹介し、感謝したい。ジョージ・ルーカスにもインタビューを行った本書は、スター・ウォーズ制作の裏側を紐解いており、ファンの方々にもぜひ読んでもらいたい一冊だ。加えて、エピソード7を読み解いた先駆者のAndrew G.の記事にも感謝を。情報が羅列されており、こちらもぜひ目を通してもらいたい。

ここまで読んでくださった皆様にも感謝を。ご指摘やご意見がある場合は、筆者ジェイKのTwitter(@StarWarsRenmei)までどうぞ。では、今後のスター・ウォーズにも期待を込めつつ、この言葉で記事を締めくくろう。フォースとともにあらんことを。

注1:小説『From a Certain Point of View』の一編「Whills」 にて。もちろんパロディだが、今後真剣にウィルズについて描くつもりがあれば、この小説にゴーサインは出さないだろう。

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