- 第七話「スパイ(The Spies)」
- 監督:リック・ファミュイワ
- 脚本:ジョン・ファヴロー、デイヴ・フィローニ
- 評価: ★9.1/10(IMDbユーザー評価)
あらすじ
新共和国に潜り込んでいたイライア・ケインは、新共和国から逃れたモフ・ギデオンの忠実なスパイであった。彼女は、ボ=カターン・クライズ率いるマンダロリアン主流派と、ディン・ジャリンの属するチルドレン・オブ・ザ・ウォッチが、協力体制を築いたことを報告する。事態を重く受け止めたギデオンは、帝国残党を陰から統治する「シャドー評議会」に援軍を求めた。ペレオン艦長は、スローン大提督の帰還を待ち、ブレンドル・ハックス司令官の「ネクロマンサー計画」に時間を与えるべきだと進言したが、ギデオンは大提督が未だに行方不明なことを引き合いに出し、説き伏せる。
惑星ネヴァロには、ボ=カターン率いるマンダロリアンの主流派の艦隊が到着する。迎えるチルドレン・オブ・ザ・ウォッチとの間に緊張感が走るが、アーマラーの鶴の一声もあり、暴力沙汰には至らなかった。そして、グローグーは、グリーフ・カルガ上級監督官から新しい乗り物をプレゼントされる。IG-11を改造したこのIG-12をグローグーはいたく気に入り、YESのボタンを連打する。
マンダロリアンの主流派と、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチは協力して惑星マンダロアへの帰還を目指すことになった。安全を確認するための先遣隊には、ディン・ジャリンを筆頭に、アックス・ウォーヴス、コスカ・リーヴス、パズ・ヴィズラ、アーマラーらが志願する。そして、マンダロアについた一行は、ボ=カターンに忠誠を誓うマンダロリアンのナイト・アウル派とも合流した。
夜。ボ=カターンは重い口を開き、真実を語る。「<千の涙の夜>で軍が全滅した後、私はモフ・ギデオンに降伏し、ダークセーバーを渡した。それで民は助かる約束だったが、<大粛清>が起こった」。そして、改めて団結の必要性を訴えた。しかし、皆には強い言葉を送りながらも、後悔と無力感に苛まれた彼女には、本当は自信が無かった。ディンは、そんなボ=カターンの人柄を褒め称え、その偉業が歴史に刻まれるまで忠誠を誓うことを告げた。
アーマラーは病人を届けるために艦隊に残った。そのほかの一行は、マンダロアの中心地である「鍛冶場」を目指す。道中、アックスとパズの喧嘩も勃発するが、IG-12に乗ったグローグーが仲裁した。そして、巨大な獣の襲撃を避けつつ、一行は何とか鍛冶場に到達した。そこで待っていたのは、ベスカーで武装した帝国軍のストームトルーパーだった。
ストームトルーパーとの一進一退の攻防の末、マンダロリアンたちは罠にハマり、ディンも捕らえられた。そして、悠々とモフ・ギデオンが表れる。彼は、マンダロリアンを滅ぼすつもりであることを明かし、マンダロアの資材のおかげで、帝国が再び復権するであろうことを誇らしげに語った。マンダロアは自分と共に生きるのだ、とまで宣言した。ボ=カターンは、ダークセーバーの受け渡しを拒否し、捕らえられたディン、しんがりとなったパズ・ヴィズラを置いて、仲間と共に逃げ出す。そして、パズは、帝国のプレトリアン・ガードに無残にも殺されるのだった。
シークエル三部作や小説との繋がり
さて、冒頭では、帝国残党を陰から統治するシャドー評議会が描かれた。シャドー評議会は、小説「アフターマス三部作」で初登場した機関だ。そして、評議会だけでなく、このシーンは、書籍まで追ってきたファン大興奮のシーンだった。
まず、ペレオン艦長が実写化した(今回の訳語はパレオン)。ギラッド・ペレオンは、レジェンズ(旧設定群)の名作スピンオフ小説「スローン三部作」で、スローン大提督の右腕として活躍していた艦長だ。レジェンズでは、後に帝国残党をまとめ上げる立場となり、新共和国との和平協定まで結んだ。そのペレオンが、正史で実写化した。スローン大提督の右腕という立場も変わらず、大提督の帰還を隠蔽しながら待つべきだと強く訴えていた。
次に、ブレンドル・ハックス司令官も書籍から実写化した。彼は、シークエル三部作に登場したアーミテイジ・ハックス将軍の父親だ。子どもを攫ってストームトルーパーにする「リザレクション計画」の発案者でもあり、ファースト・オーダーの設立に密接に関わっている。そのブレンドルは、今回「ネクロマンサー計画」と呼ばれるクローンを活用した計画にも携わっていることがわかった。
この二人は、新共和国と帝国残党の戦争を描く『マンダロリアン』シリーズの中でも重要人物となっていくだろう。ペレオンは、スローン大提督の右腕として、大提督が帰還するドラマ『アソーカ』にも再登場するはずだ。そして、ブレンドルのクローンを作ったネクロマンサー計画は、パルパティーン皇帝のクローン体での復活に繋がりそうだ。
スローン大提督が潜伏している理由と、彼の計画。スノークの制作。ファースト・オーダーの設立。パルパティーン皇帝の陰謀。『マンダロリアン』シリーズは、数年後にフィローニが監督する新作スター・ウォーズ映画で完結し、シークエル三部作へ繋がる。今ようやく「答え合わせ」が行われようとしている。これから、さらに盛り上がるだろう。
ボ=カターンの罪と意志
惑星ネヴァロに集結した主流派と、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチ。アーマラーとボ=カターンという二人の指導者のおかげで、なんとか協力体制を築くことが出来た。両派閥からメンバーを募り、先遣隊を出して惑星マンダロアへの帰還を目指すことになる。
地上は荒れ果てていたが、ボ=カターンに忠誠を誓うナイト・アウル派の生き残りもいた。マンダロリアンの同胞を前にした食事で、ボ=カターンはかつての「罪」を告白する。彼女は、民を守るためにマンダロリアンの生き方に背き、自らモフ・ギデオンに降伏してダークセーバーを渡した。しかし、それでも虐殺は行われた。彼女は、「道」を捨てた上に、何も得られなかった。
ボ=カターンは、自らが指導者にふさわしくないという不安をディンに吐露する。ダークセーバーや血筋や家柄があっても、立派な指導者にはなれない。彼女はかつて失敗もした。だが、傍で彼女を見てきたディンは、そっと彼女を勇気づける。「俺は、君の人柄に忠誠を誓う」。それは、彼女に忠誠を誓う周りが、彼女を認めていると教える優しい言葉だった。
ボ=カターンの意志や人柄は、周りへと影響を与えている。それは、彼女がダークセーバーを持っているからではない。パズとアックスが喧嘩し始めた時、事態が拡大するのを恐れ、ボ=カターンは何もできなかった。しかし、しがらみがないグローグーは割って入り、仲裁する。ディンは言う、「俺が教えたんじゃない」。それを教えたのは、彼に母親のように接してきたボ=カターンなのだ。あんなに道を絶対視していたパズも、最期は命がけで彼女を助けた。ボ=カターンの意志は、周りを変え、対立を乗り越え、マンダロリアンに新たな時代をもたらそうとしている。
ギデオンの野望
今回は、ギデオンの性格がよく表れていた。彼は、自信家であり、野心家だ。ハックスは、ギデオンが、パーシング博士を使って勝手に「ストランド=キャストの計画」を進めていたことを指摘する。つまり、彼の計画は、スノークやファースト・オーダーに直接繋がる計画ではなく、ギデオン自身が武力を得るための計画だった。また、ディンに対しては、「私がダークトルーパーのアーマーに入った点が、最大の改良だ」とも誇る。
そして、ギデオンは告げる。「マンダロアは私と共に生きる」「クローン職人も、ジェダイも、マンダロリアンも利用し、私が銀河に秩序をもたらす」。彼がジェダイやマンダロアを欲する理由は、強くなるための資源目当てであり、典型的な侵略者だ。秩序をもたらすというお題目を掲げていいるものの、その根底にある欲求は「力の誇示」に思える。ディン・ジャリンを捕らえた理由も、シーズン2で負けたことに対する復讐をしたいだけではないか。しかし彼が矮小な人間であれ、新たな兵隊を手に入れた彼は、銀河の新たな脅威になりかねない状況は変わらない。
そのギデオンの野望を挫くのは・・・流れ的に、ミソソーしかいないように思える。この圧倒的な戦力差を覆せるのは、あの神話の獣だけではないか。今までも丁寧に、クリーチャーの力というものが示されてきた。ギデオンがいかに正統性を主張しようが、力を誇示しようが、「自然の力」や「信仰の力」には敵わないというオチを予想する。そして、「神」であるミソソーの庇護下で、マンダロリアンは新たな時代へ足を踏み入れるのではないか(マンダロリアンのモデルがユダヤ人であろうことを考えると、これはしっくりくるのでは)。
スパイ
鍛冶場でマンダロリアンが待ち伏せを受けたこと。そして、今回の副題がSpiesと複数形だったことから考えて、イライア・ケイン以外にも、マンダロリアンの中に「スパイ」が居ることは確実だ。
一番怪しいとされているのは、アーマラー。シーズン1では、帝国の襲撃を生き残った唯一の生存者。しかも、マンダロリアンの部族が結集したのは、モフ・ギデオンの望むところだったと彼は語っている。しかも、ギデオンの待ち伏せの直前というタイミングで、シャトルを使って惑星を離れ、彼らの退路を断っている。カメラワークも意味深だ。極めつけは、アーマラーと同じように、ギデオンのヘルメットにも角がある。
一方で、ギデオンが本当にマンダロリアンの結集を望んでいたのかは疑問だ。冒頭で、ギデオンは彼らの結集に驚いていた。口先で余裕ぶっただけじゃないのか?また、今までも言ってきたが、アーマラーが黒幕だと、「対立を超えた結集」という本シーズンの軸がぶれる気がする。こちらは、ミスリードではないだろうか?私は、アーマラーよりも足を引っ張り続けるあいつの方が気になる。
そう、アックス・ウォーヴスだ。まずシーズン3の開始前に、彼はボ=カターンがダークセーバーを手に入れられなかったことを理由に、艦隊を引き連れて離脱した。そして、ディン・ジャリンを「異端者」だと罵り、マンダロリアンの結集も妨害した。マンダロアでも、ゲームにいちゃもんをつけて、パズ・ヴィズラと喧嘩して亀裂を生じさせようとする。待ち伏せされると、艦隊を呼んで来るとの理由で、戦線をさっさと離脱(この時、ボ=カターンに「遠すぎて無理だ」と正論を言われるのだが、「星を取り戻すんだ!」という謎の精神論で無視した)。いやはや怪しい。ボ=カターンの足を引っ張るとんだ無能か、それとも有能なスパイなのか・・・。「みんな騙されたでしょ」と笑うファヴローの顔が見え隠れするような。答えやいかに。
豆知識
シャドー評議会
帝国残党を陰から統治するシャドー評議会は、小説「アフターマス三部作」で初登場した統治機関だ。一度解体されたはずだが、『マンダロリアン』までには再建されていた。
ギラッド・ペレオン
上述したが、レジェンズ(旧設定群)のスピンオフ小説から、スローン大提督の右腕であるベレオン艦長が実写化!『反乱者たち』でも名前だけは登場していた。訳語が、発音に近づけて「パレオン」になっているのは賛否両論があるだろう。
ブレンドル・ハックスとその俳優
また、ブレンドル・ハックス司令官も正史の書籍から実写化した。こちらは、シークエル三部作に登場したアーミテイジ・ハックス将軍の父親だ。ファースト・オーダー設立にも深く関わっている。
演じたのは、アーミテイジを演じたドーナル・グリーソンの弟、ブライアン・グリーソンだ!かなり似ている。
メイルーラン
グローグーがIG-12を使って掴んでいた果物は、メイルーラン・フルーツ。『クローン・ウォーズ』に登場してから、スター・ウォーズおなじみの果物になっている。
カメオ出演
『ブレイキング・バッド』等で知られるアメリカ人俳優のチャールズ・ベイカーがカメオ出演!マンダロアで生き残っていたマンダロリアンを演じた。
プレトリアン・ガード
モフ・ギデオンの近衛兵として登場したのは、『最後のジェダイ』でスノークの近衛兵だったプレトリアン・ガード。ただし、ヘルメットの形状は違う。この近衛兵は、ロイヤル・ガードから影響を受けていたが、その起源には謎の部分が多い。ファースト・オーダーとのつながりをほのめかせる登場だ。