ユダヤ人にされたマンダロリアン。シーズン3で「完結」させるのか、いばらの道を歩むのか

2023/04/22

マンダロリアン レビュー

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『マンダロリアン』シーズン3については、前回の記事で総評を行った。問題点を批判した上で、シリーズのテーマを分析したので、全体への評価はそちらで確認してもらいたい。しかし、該当記事の中では、第五話「海賊」で指摘した「マンダロリアンがユダヤ人をモデルとしている」という考察について、最終的な結論を出していなかった。

今回の記事では、改めて本作におけるマンダロリアンの描写がユダヤ人を匂わせるものであったこと、マンダロリアンとユダヤ人を重ねたのは本作が初めてであること、そして今後の「次のテーマ」について考察していく。

『マンダロリアン』におけるユダヤ人を匂わせる描写

前提知識として、『マンダロリアン』の脚本を担った製作総指揮であるジョン・ファヴローは、ユダヤ文化の中で育った。本人も自分がユダヤ文化から影響を受けていることを認めており、聖書から名前を借りて自身の会社に「Golem creations」と名付けている。彼は、本作のマンダロリアンと、ユダヤ人を明らかに重ねていた。

聖なる水に浸かって改宗や禊を行う点。教義に則った部族である点。故郷を失い、離散して隠れて生きる点。強大な政府によって弾圧される点。「正統派」や「リベラル」の対立を超えて団結しようとする点。いずれも、第二次世界大戦後にイスラエルへの「帰還」を果たしたユダヤ民族と重なる

また、ユダヤ法であるハラハーは、「the Way」と訳すことが出来るため、「This is the Way」という合言葉がユダヤ文化に由来すると考える人も居る。さらに、第一話「背教者」に登場したマンダロアから持ち帰られた石の破片には、旧約聖書の「出エジプト記」の一部が刻まれていたようだ[詳細]。

以上の類似点をもって、本作の視聴者はマンダロリアンよユダヤ人を重ねた。また、当事者であるユダヤ人も、自分たちの文化とマンダロリアンを重ねた。どこまでが意図したものかは別として、マンダロリアンのモデルはユダヤ人であると広く受け入れられたのである。

そもそもマンダロリアンは、ユダヤ人じゃない!

と、ここまっで類似点を指摘してきたが、スター・ウォーズの大ファンとして、事実を指摘しよう。マンダロリアンの元々のモデルは、ユダヤ人ではない

初めて「マンダロリアン」として登場したのは、そのアーマーを受け継いだボバ・フェットだ。この時点では、マンダロリアンの背景は「クローン大戦中にジェダイ・ナイトによって滅ぼされた邪悪な戦士の集団」であった。『EP2/クローンの攻撃』では、ボバの父ジャンゴが登場し、マオリの血を引くテムエラ・モリソンが起用された[注1]。

また、後の拡張作品でマンダロリアンの文化を構築したカレン・トラヴィスは、その設定が古代ケルト人をモデルにしたことを明かしている。『クローン・ウォーズ』でマンダロリアンを登場させる際においても、北欧風の設定を加えたとデイヴ・フィローニが明かしている。

今までのマンダロリアンの設定には、ユダヤ人の要素は見られなかった。しかし、これらの設定には、一つの共通点を見いだせる。それは、中央文明にとっての部外者であり、時に侵略される被害者となった点だ。マオリは、ニュージーランドの先住民族で、イギリスの入植者に弾圧された。アルプス以北に原住していた古代ケルト人は、古代ローマの侵略の対象になった。北欧のヴァイキングは、現在のフランスやイギリスへ侵攻した外敵であり、キリスト教への「同化」を余儀なくされた。

『マンダロリアン』の総指揮であるジョン・ファヴローは、今までのマンダロリアンの設定に通底していた「部外者のイメージ」をユダヤ人へと重ねた。マンダロリアンは、本作でユダヤ人に「された」わけだが、今までの文脈を理解した上での設定である。そのうえで、ユダヤ人という新たなモデルを取り込むことで、新たな物語を描こうと模索した。

ユダヤ人としてのマンダロリアンの物語の「完結」


「彼らは、強大な敵に故郷を奪われて離散した。各地では隠れるように、部外者として暮らしていた。しかし、右派も左派も結集したことで、故郷を取り戻すことが出来た」。これは、ユダヤ人とイスラエルの話であるが、マンダロリアンとマンダロアの話でもある。悲劇が終わったハッピーエンドの物語だ。

ファヴローが、マンダロリアンに新たにユダヤ人を重ねた上で描きたかったのは、この「故郷の奪還」であろう。そして、それはシーズン3で達成された。つまり、ユダヤ人に重ねられたマンダロリアンの物語は、ここで「完結」したことになる。

もしこれ以上「ユダヤ人であるマンダロリアン」の物語を描くのであれば、新たなテーマが必要になってくるだろう。その最有力候補は、ユダヤ人にとって最もセンシティブな話題である「パレスチナ問題」だ。第二次世界大戦後、ユダヤ人は故郷イスラエルへの「帰還」を果たしたが、それは国連の裁定を無視したものであり、今現在も「追いやった」パレスチ人や国際社会から批判され続けている。

勘違いするべきではないが、ユダヤ人は必ずしもイスラエル国民ではない。ファヴローも、イスラエル国民ではないはずで、必ずしもイスラエルに対して肯定的であるとは限らない。それどころか、隣人であるネヴァロの民から歓迎される第五話「海賊」の描写は、隣人と敵対し続けるイスラエルの現実と対照的な描写に思えた。ただし、故郷への「帰還」を描いたということは、イスラエルを全否定するつもりもないだろう。

ユダヤ人であるマンダロリアンの物語は、ハッピーエンドで「完結」するのか。それとも、現実問題へ強烈な一撃を加えるのか。私は前者だと考えている。だが、ファヴローや制作陣が「いばらの道」を歩むというのなら、私は一ファンとして応援しよう。現実を反映してきたスター・ウォーズは、世界へ警鐘を鳴らす作品であるべきだ。


[注1]:ルーカスの想定だと、ジャンゴ・フェットはマンダロリアンではない。しかしながら、スピンオフ設定群の中で、彼はマンダロリアンとして扱われていた。他のマンダロリアンにも、マオリの訛り(ニュー・ジーランド訛り)が付与されている。

参考サイト
「Is ‘The Mandalorian’ Lowkey Jewish?」、https://www.heyalma.com/is-the-mandalorian-lowkey-jewish/
「The Mandalorthodox」、https://jewishstandard.timesofisrael.com/the-mandalorthodox/
「Yom Ha’atzmaut echoes in ‘The Mandalorian’」、https://www.jns.org/yom-haatzmaut-echoes-in-the-mandalorian/

筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei
画像は、『マンダロリアン』シーズン3(2023年、ルーカスフィルム)より。

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