【レビュー・豆知識】『マンダロリアン』シーズン3第六話「傭兵」【あらすじ・ネタバレ】

2023/04/06

マンダロリアン レビュー

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  • 第五話「傭兵(Guns for Hire)」
  • 監督:ブライス・ダラス・ハワード
  • 脚本:ジョン・ファヴロー
  • 評価: ★6.9/10(IMDbユーザー評価)

あらすじ

クオレンのシャガス船長とモン・カラマリの総督の息子は、種族の対立を超えて愛を育み、駆け落ちしようと逃走していた。しかし、総督はそれを許さず、アックス・ウォーヴス率いるマンダロリアン傭兵団に息子を連れ戻すように依頼した。息子はマンダロリアンは高潔なはずだと訴えるが、傭兵団のコスカ・リーヴスは「高潔も物入りでね」と冷たく返す。

一方、マンダロリアンの再統合を委ねられたボ=カターン・クライズは、ディン・ジャリングローグーと共に、かつての部下だった傭兵団が防衛部隊として雇われているプラジール15を訪れる。しかし、当地の支配者のボンバルディエ女公爵(公爵夫人)は、傭兵団との面会を許す交換条件として、彼女らに暴走ドロイドの調査を頼んできた。バトルドロイド嫌いのディンは乗り気で、ボ=カターンは渋々引き受ける。

二人は、ドロイドを監督する保安部のヘルゲイト長官から話を聞き、まずはドロイド工房のアグノートを訪ねることにした。彼らはとても気難しい種族だったが、クイールから扱い方を学んでいたディンは「有無は言わさん」という決め台詞も駆使しつつ、次の暴走ドロイドが発生する場所を聞き出した。荷下ろし場で、ディンはドロイドを蹴とばすという乱暴な方法で、命令に従わないドロイドを見つけ出し、破壊に成功する。そして、「ザ・レジスター」というドロイド用のバーに、このドロイドが出入りしていることを知った。

ザ・レジスターでも乱暴な態度を崩さないディン。しかし、ドロイドは第二のチャンスを与えてくれたプラジール15に感謝しており、自ら協力を申し出た。情報によると、暴走したドロイドは全て同じ「ネペンセ」を飲んでいた。その内容物を分析してみると、中にはナノ・ドロイドが仕込まれていた。その購入者である黒舞うはヘルゲイト長官。問い詰めると、長官は分離主義者時代からの思いを語るが、政治にうんざりのボ=カターンは彼を気絶させる。

犯人を突き出したことで、ディンとボ=カターンは「プラジールの鍵」を公爵夫妻から授与された。そして、夫人のゲームに密かに協力していたグローグーも「古代独立摂政騎士団」のナイトの爵位を授かる。こうして、事件を解決し、三人はようやくマンダロリアンの傭兵団のもとへ向かう。

新たなリーダーとなったコスカ・リーヴスは反抗的で、話を聞く素振りも見せない。ボ=カターンは、伝統に従って決闘を申し込み、彼を撃破。艦隊の指示権を取り戻す。だが、ダークセーバーを持っていない彼女は支配者にふさわしくないとリーヴスはまだ反抗する。それを見ていたディンは、第二話でボ=カターンに命を救われたことを引き合いに出し、彼女こそが真の所有者だと宣言する。ダークセーバーはボ=カターンの手に戻り、再び彼女は正統なるマンダロリアンの支配者となった。

刑事ドラマでのコンビ


脇道に逸れ過ぎだとかなり批判されている今回だが、一話完結の「SF刑事ドラマ」としてはかなり上出来だった。『マンダロリアン』シーズン3が、今年配信の『アソーカ』や『スケルトン・クルー』を含む「マンダロリアン・バース」という大きな枠組みの中の一部だと思えば、これぐらいの遠回りは許容しても良いのではないだろうか。スター・ウォーズ作品の幅を広げ、さらに世界観を掘り下げた一話だった。

ディンとボ=カターンのコンビは見ごたえがあった。かたやドロイド嫌いの元傭兵。かたや公爵家の令嬢で、元政治家。ディンは傭兵時代の経験からアグノートと仲良くし、ドロイドに対しては乱暴な方法で情報を入手する(人種差別主義者の警官のように)。ボ=カターンは、ボンバルディエ公爵夫妻との交渉で貴族・政治家としての能力を発揮し、ドロイドへも協力を求める姿勢を貫く。二人は互いの弱点を補い、真実へとたどり着く。さっそく「二つの道」が協力し、前身する姿が描かれた。この二人なら、マンダロリアンを変えられるんじゃないかと期待が高まる。

また、今回の「刑事ドラマ」は、『クローン・ウォーズ』が強く意識された内容だった。B1バトル・ドロイドやB2スーパー・バトル・ドロイドに加え、ナノ・ドロイドも同作に登場していたものだ。しかも、ヘルゲイト長官は、ドゥークー伯爵を信じ続ける分離主義者だ。同作のシーズン2第15話「議員暗殺」やシーズン5第17話「爆破犯を追え」は刑事ドラマ風、ミステリー・ドラマ風であり、ここから着想を得た可能性もあるだろう。

新たな場所での第二の人生


プラジール15には帝国が絡んでいるなどの裏はなく、あっさりと解決した。このことが脇道に逸れていると批判される一因だろうが、今回も『マンダロリアン』シーズン3の主軸のテーマが描かれたはないだろうか。それは、新たな場所で第二の人生を送る必要性だ。

冒頭では、クオレンとモン・カラマリの禁断の恋、「宇宙版ロミオとジュリエット」が描かれた。二人は、恋を邪魔されない新たな場所での第二の人生を目指していた。プラジール15という場所では、全ての人間・ドロイドが第二の人生を得ていた。ボンバルディエは元帝国軍軍人でありながら、プラジール15で贖罪を果たして真実の愛を見つけた。アグノートは帝国の奴隷から解放された後も、自らの技術を活かす場所を見つけた。ドロイドも廃棄されずに役立てる地を得た。直接民主制うんぬんの台詞から、一部の種族やドロイドに負担を押し付けている古代ギリシアのようないびつな社会なのではないかと身構えてしまうが、実際は理想郷だった。

一方、犯人であるヘルゲイト長官は、分離主義者というアイデンティティを変えられず、テロ行為へと走ってしまう。それでも、女公爵(公爵夫人)は彼の改心、彼の「第二の人生」に期待して、彼を流罪にとどめるのだった。

「第二の人生」は、『マンダロリアン』の主テーマだ。ディン・ジャリンは孤児からマンダロリアンという新たな人生を手に入れ、グローグーもジェダイではない新しい生活を手に入れつつある(ついでにジェダイではない「ナイト」の爵位も貰った)。ボ=カターンやマンダロリアンも内戦を終わらせるために、再出発しようとしている。前回、ネヴァロという「新たな場所」を手に入れたマンダロリアンたちは、「第二の人生」をスタートさせようとしているのだ。しかしそこに立ちふさがるのが、敗北を受け入れて変わることを拒否しているモフ・ギデオンや帝国の残党だ。

指導者となるボ=カターンにとっては、新共和国の外で理想郷を作っているこのプラジール15はモデルとなるだろう。そして、彼らと連帯する道筋まで得た。今回も、『マンダロリアン』シーズン3のテーマに向きあった一話だった。

マンダロリアンの掟と血筋、そして継承


とうとうダークセーバーがボ=カターンの手に戻った。艦隊の所有権は決闘で決めるのに、ダークセーバーの継承の「掟」はそんな理屈で曲解していいのか、と思わずツッコミたくもなる。だが、ボ=カターンがマンダロリアンを統合する「架け橋」であるという立ち位置を考えれば、この流れも理解できるのではないだろうか。

アックス・ウォーヴスは、ディン・ジャリンをマンダロリアンと認めない理由を明かした。曰く「マンダロリアンの血が一滴も流れていないディンは、異端者」。彼をはじめとした主流派は、マンダロリアンとは「血筋」で決まるものだと考えているようだ。一方で、孤児を仲間に加えるチルドレン・オブ・ザ・ウォッチは、今まで見てきたようにマンダロリアンとは「掟」で決まるものだと考えている。「掟」か「血筋」かという考えの対立が、相手を異端やカルトだと決めつける要因であり、マンダロリアンを「二つの道」に分裂させている。

だが、主流派のかつてのリーダーで、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチにも認められたボ=カターンは、この「二つの道の架け橋となる」存在だ。彼女は、『反乱者たち』でのダークセーバーの継承が「掟」に則ていなかったことが敗北の要因だと捉えていたようで、『マンダロリアン』では継承の「掟」を重視しようとしていた。そうしなければ、マンダロリアンの統合と再興を成すことが出来ないと考えていたからだ。しかし、「掟」を守る側のディン・ジャリンが譲歩を見せた今、もはや統合のためにダークセーバーの継承を厳密に行う必要はない。今回の「雑な継承」は、「掟」と「血筋」が互いに歩み寄った結果であり、正当化されうる。


思い返せば、『クローン・ウォーズ』でのデス・ウォッチの分裂の根底にも、この二つの対立があった。モールは「掟」に則りダークセーバーを手にしてマンダロリアンの支配者になったが、「血筋」(伝統)を重視するボ=カターンたちは離脱した。マンダロリアンの内戦は、常にこの二つが問題となっているのではないか。

また、モール派とチルドレン・オブ・ザ・ウォッチはどちらも「掟」を重視していることがわかる。ということは、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチは、かつてのモール派なのだろうか?アーマラーは、スーパーコマンドーと同様にヘルメットに角をつけており、両者の関係性は指摘されてきた。そして、スーパーコマンドーは後に帝国派になっている。もしかして、やっぱりアーマラーがすべての黒幕か・・・?

私としては、実はモフ・ギデオンもマンダロリアンであり、どこまでいっても内戦の構図という説も捨てがたい。「血と掟という対立を乗り越えて変わった」マンダロリアンたちと、「いつまでも変われないモフ・ギデオン」という対立の構図も面白いだろう。変わることの重要性が描かれた今回は、その下準備にも思える。

豆知識

ボンバルディエ公爵夫妻


ボンバルディエとしてカメオ出演したのは、コメディアン、俳優、アーティストのジャック・ブラック。公開が迫った『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ではクッパの声優を務めている。
女公爵(公爵夫人)を演じたのは、ラッパー、アーティストのリゾ(Lizzo)。アメリカで最も影響力がある音楽家だ。

クリストファー・ロイド


ヘルゲイト長官を演じたのは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのドク・ブラウン役っでおなじみのクリストファー・ロイド。彼の登場はかねてから噂されており、本人も冗談交じりで出演を認めていた。

クオレンとモン・カラマリの禁断の恋


冒頭では、クオレンの女性船長シャガスとモン・カラマリの総督の息子が駆け落ちしようとしていた。クオレンとモン・カラマリは、どちらも惑星モン・カラの出身種族で犬猿の仲にあり、『クローン・ウォーズ』でもその争いが描かれていた。
シャガス船長を演じたのは、イギリス人女優のクリスティン・アダムス。モン・カラマリの総督の息子を演じたのは、あのトム・ホランドの弟であるハリー・ホランドだ。
また、シャガスという名前は、クトゥルフ神話の「ショゴス」に由来するかもしれない。

バトル・ドロイドの声優


プラジール15では、分離主義者のドロイドであるB1バトル・ドロイドやB2スーパー・バトル・ドロイドが新たな役割を得ていた。B1バトル・ドロイドの声優を務めたのは、『EP2/クローンの攻撃』でもB1を担当したマシュー・ウッド。彼は、グリーヴァス将軍やビブ・フォーチュナの声優も担当してきた。

「有無は言わさん」


ディン・ジャリンは、気難しいアグノートとの交渉で、クイールの名前と「有無は言わさん」という決め台詞を使って見事に懐柔に成功した。クイールは、『マンダロリアン』シーズン1に登場したアグノート。ディンがグローグーと出会う際に手を貸してくれたばかりか、IG-11の再プログラミングまでしてくれたが、帝国との戦いで戦死した。

クローン大戦

独立星系連合(分離主義者)や、連合の構成企業だったテクノ・ユニオン、連合の指導者のドゥークー伯爵といった単語が、劇中では言及されていた。いずれも『EP2/クローンの攻撃』で初登場し、『クローン・ウォーズ』で掘り下げられてきたもの。

ドロイドのバー


ディンとボ=カターンは、捜査の一環としてドロイドのバーである「ザ・レジスター」を訪れる。このバーで二人は歓迎されないが、これは『EP4/新たなる希望』のカンティーナのオマージュだろう。EP4ではドロイドが歓迎されないが、こちらでは反対に人間が歓迎されない。

クアクタとスティフリング

『マンダロリアン』シリーズで度々スラングとして登場してきた「クアクタ」と「スティフリング」が再び言及された。どちらもヌメヌメのクリーチャーであるようだ。「クアクタが、スティフリングをヌメヌメだと指摘してるぜ」というスラングは、「目糞鼻糞を笑う」という意味だろう。

  
        第三話「改心」
        第四話「孤児」
        第五話「海賊」
        第六話「傭兵」


筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei

画像は、『マンダロリアン』シーズン3(2023年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点。出典 出典

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