- 第1話「1年後(One Year Late)」
- 第2話「サグロナ・ティーマ(Sagrona Teema)」
- 第3話「収穫(Harvest)」
- 監督:アリエル・クレイマン
- 脚本:トニー・ギルロイ
モン・モスマが失うもの
前シーズンから1年が経過し、惑星シャンドリラでは結婚式が行われようとしていた。結婚するのは元老院議員モン・モスマの娘リーダと銀行家ダヴォ・スカルダンの息子。二人はまだ15歳にも満たなかったが、伝統に従い結婚することとなった。そのきっかけはシーズン1でモン・モスマが反乱活動に資金を供出したことを隠すため、友人の銀行家テイ・コルマを通じてスカルダンに頼ったことに端を発する。この結婚には政略結婚という一面があった。
結婚の直前、リーダは新郎と喧嘩する。彼が子供っぽく、未だに手を握ってくれないことが原因だった。モンの口からは思わず、「I’m sorry」と謝罪にすら聞こえる言葉が出てくる。リベラルであるモン・モスマはこの結婚が自分のせいでもたらされたもので、娘への負担だと思っているようだ。そして、結婚の儀式の直前、モン・モスマはリーダに結婚を取りやめる選択肢を提案する。自分の母が酔っ払って自分に言えなかったこととして、すべて捨ててようと語る。だが、リーダからは「お母さんも酔っていたらいいのに」と辛らつな返答をされてしまう。
ただでさえ、ストレスのかかる状況だが、この結婚式でモン・モスマにはもう一つの悩みの種ができた。モンを支援してきた友人のテイ・コルマが窮状に陥っていた。テイは妻とも別れ、投資していた事業も反乱活動により打撃を受け、精神的にも経済的にも追い詰められていた。テイはずっとモンに連絡を取ろうとしていたが、無意識にモンは彼を避けており、状況はすでに悪化していた。晴れの舞台でありながら、テイは酔いつぶれるほど荒れ、そしてモンに援助を求める。最終的には、モンが悪党として嫌っていたスカルダンへすり寄るそぶりすら見せた。結婚式に出席していた古物商で反乱活動のフィクサーであるルーセン・レイエルはテイが今後への大きなリスクになると考え、モンを押し切って彼に暗殺者シンタを送り込む。モンは苦しみを忘れるために酒を煽り踊るしかできなかった・・・
この3話で、モン・モスマは娘と親友を手放すことになった。だが、どちらもその原因はモン自身にあるのではないかと思ってしまう。モンは娘が「復古主義」の影響で結婚を望んでいることを頭では理解しながら彼女の結婚に反対するような言動をとってしまった。まだ幼い彼女を手放したくない、そしてその結婚相手をもたらした原因が自分の反乱活動にあるという罪悪感がモンとリーダの間に溝を生んでいるように思える。
そして、テイ・コルマはあまりにも不憫だ。モン・モスマとルーセン・レイエルは彼が脅しをかけてお金を引っ張ろうとしたと捉えた。だが、テイはあくまでも控えめに窮状を訴えているに過ぎない。モンに連絡をとれず状況が悪化したにも関わらず、彼女を強く攻めることはせず、結婚式でもなるべくモンを邪魔しないように2度も話を後回しにしてあげた。スカルダンを褒めていたのも、自分がモンに強く窮状を訴えられなかったことを反省する文脈であった。だが、ルーセンとモンは彼へ理解を示そうとしない。誰しもが正義のために家族や地位や資産を捨てることができるわけではないのに、実際に家族も資産もすべてを捨てる覚悟である二人はテイが危険人物だと考えてしまう。もし、モンがもっとテイのことを気遣っていれば、スカルダンの妻でさえ知っているテイの別居ももっと早く知れ、彼の資産の問題も把握し、関係が悪化する前に手助けができただろう。モスマがしばしば話している人物から目を背けるカットがあるのは、そんな彼女の性格を表しているようにも思える。
モンは反乱活動に熱心になればなるほど視野狭窄に陥り、周りを失っていく。だが、夫のペリンが語っていたように、つらい状況に目をつぶり楽しみを見つけるような人生を送ることは彼女にはできない。第3話の最終盤でモンは逃避するために酒を煽り、踊りに明け暮れた。だが、彼女を責めるように、キャシアンやビックスが陥っている窮状が差し込まれる。モスマに現実からの逃避を許さない演出となっている・・・
生活を侵す悪の帝国
1年前のフェリックスの反乱により逃亡者となったビックス・カリーン、ブラッソ、ウィルモン・パークは惑星ミーナ=ラウに不法移民として滞在していた。つつましいながらも平和な生活を送り、ウィルモンは現地で恋人も見つけていた。だが、不運なことに帝国の査察が訪れる。不法移民な上に、キャシアンを通じて反乱活動ともつながっているビックスらは帝国に見つかるとまずい。現地の住民の協力も得て何とか帝国の査察から逃れようとするが、予定よりも早く査察隊が訪れたことで計画が狂う。ブラッソは帝国軍に見つかり、査察の責任者である中尉はビックスをレイプしようとする。ビックスが抵抗し、ウィルモンが発砲し、そしてキャシアンがTIEアベンジャーに乗って駆け付けたことで一行はなんとか脱出するが、ブラッソという犠牲を出した・・・
ビックスたちの物語は、トランプ政権下のアメリカにおける不法移民の現状と呼応する物語だった。ビザを持たない不法移民はたとえ地域に受け入れられたとしても、弱い立場に置かれている。中尉は下心が見え見え、田舎を見下すような発言がありながらも、初対面時にはビックスに表向きは紳士的に接していた。だが、彼女が不法移民だとわかった瞬間、見逃すことを条件に彼女に性的関係を迫る。シーズン1の拷問により帝国軍に傷つけられた彼女をさらに帝国は傷つけようとする。帝国というシステムの邪悪さが際立つ。
今回は生き延びたビックスとウィルモンだが帝国に追われる彼女たちに安住の地はない。助けてくれる善良な人々にも限界はあり、武器を持って帝国に立ち向かうまではできない。ブラッソもそれはわかっているからこそ、最後に店主を裏切り者に仕立てあげることで彼を守ろうとした。悪の帝国を倒さない限り、人々に安心は訪れない。だからこそキャシアンやモン・モスマはどんな犠牲を払ってでも革命を進めなければならない。
キャシアンの成長
キャシアン・アンドーはサイナー・フリート・システムズ社から新型試作機のTIEアベンジャーを盗み出す任務に就いていた。現地の協力員のニヤは帝国を裏切る恐怖におびえるが、キャシアンは戦うことの意味を説き彼女を落ち着かせる。無事に船を盗み出した後、仲間との合流地点に向かうが、仲間はすでに殺され、そこにいたのはリーダーを失い逃げ延びてきた反乱分子のマヤ・ペイの部隊だった。帝国を倒すという志は同じにもかかわらず、身元を隠そうとするキャシアンは彼らの信頼を得ることはできない。だが、キャシアンが疑念の種をまいたことで部隊は2つに分裂。殺し合いが始まった。彼はその状況を上手く利用しTIEアベンジャーへと乗り込み脱出する。そしてビックスたちが窮状に陥っていることを知ると、急いでミーナ=ラウへと駆け付ける。
前シーズンから1年が経ち、キャシアン・アンドーは立派な工作員へと成長していた。サイナーの研究所ではまだ若いニヤを説き伏せ、マヤ・ペイの部隊では不安を煽ることで仲違いを発生させた。ベテラン特有の余裕ができて、周りを上手く扇動することができるようになっている。これからも、ルーセン譲りのその口のうまさで、周りを犠牲にする汚い仕事を請け負いつつ、反乱軍に貢献していくのだろう。
マヤ・ペイの部隊が殺し合いを始めたことも驚いたが、その決着がファイブ・ハンドことじゃんけんで終わろうとしていたことも衝撃的だった。彼らの幼稚さの表れでもあり、同時に希望であるように感じた。これから反乱活動は一つの同盟軍へとまとまる流れにつながっていく。このように憎みあうもの同士が血を流さずに解決する道筋が示されたことには意味があるだろう。
ゴーマンの虐殺へ
オーソン・カラン・クレニック長官は一部の精鋭を秘密の会合に集め、その中にはデドラ・ミーロも名を連ねていた。彼は、惑星ゴーマンでの施策を練っていた。曰く皇帝パルパティーンが目指す「無限のパワー」を得る計画には、この惑星からとれるカリカイドが必要で、そのためにこの惑星を制圧するつもりとのことだ。すでに啓蒙省の人間がプロパガンダを流しているが、状況は芳しくない。クレニックはデドラに案を求め、彼女は反乱活動を起こし、それを鎮圧する名目で武力行使すべきだと語る。
クレニック長官が登場し、いよいよ『ローグ・ワン』と直接つながる流れになりそうだ。彼が出てくるということは、皇帝の欲する「無限のパワー」とはデス・スターのことであろうか。ゴーマンでとれるカリカイドはリアクターレンズに使うと明言されており、デス・スターのレンズに使うというのは有力な見方だ。
また、デドラが武力行使を提案したのも重要だ。すでにクレニックは武器庫を用意していたようで、腹の中ではすでにデドラと同じことを考えているのかもしれない。ここゴーマンでは今後「ゴーマンの虐殺」が発生することになる。レジェンズ(旧設定群)のころから設定上存在するこの事件により、モン・モスマは元老院で帝国を公然と批判し、逃亡者になる。本作の大きな転換点がまもなく訪れようとしている。
シリルとデドラ
1年が経ち、シリル・カーンとデドラ・ミーロは恋人となっていた。そして、シリルの母イーディを自分たちの家へと招く。シリルはなんでも頭ごなしに否定し、自分を批判するような母にいら立ちが隠せない。だが、そんな母親にデドラは役人らしい「最後通牒」を突き付け、母の行動を改めさせることに成功する。
この二人がカップルになっていると予告編で知った時は気味が悪いと思っていたが、ふたを開けてみるとお互いを尊敬している良いカップルに思える。エリート街道をゆくデドラはもちろん、標準局で不正を摘発したシリルも仕事は順調そうだ。そして、二人の生活もうまくいっているように思える。シリルはデドラが用意したフォークが曲がっていれば文句も言わずにそれを直す。デドラはシリルのいら立ちを受けて母に対して条件を提示する。良いパートナーではなかろうか。それぞれに欠けている部分がある二人だが、二人でいればさらにより良い人生を歩めるかもしれない。
カップルと犠牲
3話同時配信だと、観るのにも時間が取られ、すべてを語りつくすことは難しい。しかし、この3話のアークとしては、「カップル」がテーマになっていただろう。モン・モスマの娘リーダとスカルダンの息子という新たな夫婦。モンとペリンという違う方向を向いている夫婦。シリルとデドラという互いに欠けている部分があっても支えあうカップル。帝国によって引き裂かれるウィルモンとビーラ。反乱によって仲違いをしたヴェルとシンタ。これだけのカップルが本アークにて登場した。愛の物語としてのスター・ウォーズが強化されている。
また、同時に「犠牲」も目立った。モン・モスマは娘との生活、友人の命を引き換えに反乱を続ける。ビックスとウィルモンはブラッソの命と引き換えに生き延びる。キャシアンは反乱にかかわる自分以外の人々を犠牲に反乱を加速させていく。本作の暗いテーマがうかがえる。
豆知識
サイナー・フリート・システムズ社
第1話冒頭で、キャシアンが潜入しているのはサイナー・フリート・システムズ社。、銀河帝国と独占契約を結んでTIEシリーズを製造したことで知られる有名企業だ。ちなみに、第1話 冒頭の惑星の名前は「サイナー」ではなく、サイナー社が管理する「72」とのこと。
TIEアベンジャー
TIEアベンジャーは、1994年のルーカスアーツゲーム『TIEファイター』で初登場した。旧設定群(レジェンズ)では、スローン大提督がTIEアベンジャーの開発に貢献したという設定だった。また、この機体は『スカイウォーカーの夜明け』のTIEウィスパーに一部インスピレーションを受けてデザインされている。加えて、本作の撮影のためにTIEアベンジャーは実物大で建造された。
カフリーン
第1話の冒頭で、ニヤからキャシアンが受け取ったパスワードは「カフリーン」。『ローグ・ワン』では、物語は「カフリーンの輪」から始まっており、同作へ繋がる要素になっている。
レンジ・トルーパー
キャシアンを襲うストームトルーパーの中には、映画『ハン・ソロ』にて初登場したレンジ・トルーパーの姿もある。
TIEアドバンスド プロトタイプ
帝国の基地から逃げるキャシアンを追う帝国の船は、『反乱者たち』シーズン1にて初登場したTIEアドバンスド プロトタイプ。
麦畑
惑星ミーナ=ラウの麦畑を作り出すため、制作陣はイギリス・オックスフォードシャーの広大な畑にライ麦を植えた。
2023年夏にSAG-AFTRAのストライキが始まった後、制作チームは撮影を中断して麦を収穫しシートに入れて、後にパインウッドのスタジオで屋外ロケを再現できるようにした
アースキン・セマージ
モン・モスマの副官として、アースキン・セマージが登場。彼は、『反乱者たち』シーズン4でも帝国から追われるモスマを護衛していた。
ラカタ
シーズン1に引き続き、再び古代の侵略者としてラカタの名前が登場。レジェンズからの引用で、レジェンズではEP4の25000年前にラカタが「無限帝国」を築き、様々な種族を奴隷として酷使した。
ゴーマンの虐殺
クレニック長官らは惑星ゴーマンについて語っている。これは、モン・モスマが帝国を公然と非難し元老院を離脱することになった事件「ゴーマンの虐殺」への明らかな布石。レジェンズ(旧設定群)では、この虐殺を起こしたのはターキンになっていたが、正史では果たして・・・?
「無限のパワー」
クレニック長官によれば、パルパティーン皇帝は 「安定した無限のパワー」を求めている。
パルパティーンは『シスの復讐』でメイス・ウィンドゥを殺すときに、「無限のパワーを!」と叫んでいた。
マーヴァ
ビックスたちの新しい家では、壁にマーヴァ・アンドーの肖像画を確認できる
ヤヴィン4
キャシアンが囚われの身となったジャングルの惑星はヤヴィン4だと第2話で明らかになった。『新たなる希望』で初めて登場したこの惑星は反乱同盟軍の本拠地が置かれており、その建物が確認できる。
AT-ST
ミーナ=ラウの食事のシーンでは、子供がAT-STのおもちゃで遊んでいることが確認できる。
【『キャシアン・アンドー』記事まとめ】
シーズン2 第1話~第3話(1週目)
画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点