【考察・感想・豆知識】ドラマ『キャシアン・アンドー』第五話:群像劇の人間ドラマ

2022/10/07

キャシアン・アンドー レビュー

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  •  ドラマ『キャシアン・アンドー』も、今回で第五話。展開が遅すぎるという声もあるが、着実に、キャラクターひとりひとりの人間ドラマが積み重なっている。どのシーンも無駄がなく、味わい深い演出ばかりだ。次回第六話はアクション回になる見込みだが、もし誰かが欠けることになれば深い悲しみを覚えるだろう。今回の記事では、ひとりひとりの人間ドラマに注目してみた。



    それぞれの反乱のきっかけ



     キャシアン・アンドーは、初代「ローグ・ワン」とも言うべきヴェル率いる反乱分子に傭兵として加わった。計画の直前で加わった彼に他のメンバーは懐疑的で、前回の終わりには、焚火の前でゆっくりと食事を摂ることすらできなかった。しかし、今回は「焚火」の前で仲間から飲み物を渡されたり、秘密を打ち明けられたり、と徐々に受け入れられつつある。

     名もなき英雄の物語だった『ローグ・ワン』の前日譚である今作は、今までモブに過ぎなかった反乱分子や帝国の兵士に人間味を与えている。特に今回は、反乱分子たちのそれぞれの反乱のきっかけに焦点が当てられていた。




     かつて刑務所に入っていた前科者のアーヴェル・スキーンは、序盤に「帝国への復讐さえできれば十分だ」とキャシアンに語る。今回のサブタイトル「やった側は忘れる」は、その時の彼の台詞だ。原文は「The axe forgets, but the tree remembers」で、「斧は忘れても、斬られた木は覚えている」という意味。何世紀も続いた「ペッパーの木」の農場を帝国に奪われ、自殺に追いやられた自分の兄を念頭にした台詞だ。
     
     キャシアンに対して常に疑いの目を向けるスキーンは、復讐の計画の成功を第一に考えているように思える。だが、終盤で、兄の話を明かした後、彼の口からは本音が漏れる。「帝国をずっと憎んできたが、今はどうか分からない」。いつの間にか反乱や復讐という大義に
    飲まれて流されていたスキーンは、『ローグ・ワン』のキャシアンにも重なる。




      一方で、まだ若いカリス・ネミックは理想主義者だ。帝国によって失われた自由や権利を追い求め、正しい政治を銀河に取り戻そうとする。正義漢はおとぎ話らしいキャラだが、ローテクを愛し、政治に傾倒するその姿は、どちらかというと、学生運動に加わる大学生に重なる。彼が書いているという「宣言書」は、後の反乱同盟軍創立文書にも関わるかもしれない。




     そして、ゴーン中尉は、アルダーニ人の恋人を帝国に奪われた過去を持つ。原住民を弾圧し、恋人との思い出の残るアルダーニの自然をも破壊しようとする帝国。その姿に、彼は忠誠心を失った。しかし、表向きは帝国に従い続け、軍人を演じ続けている。「アルダーニ人は匂ったでしょうね、想像できますか?」という部下の言葉に、「想像できるとも」と、つい本音を漏らしてしまった彼の心中を思うと、心が痛い。

     反乱活動へ身を投じた理由が未だに不明な人物も、とても人間らしい部分が描かれていた。反乱分子のリーダーのヴェル・サーサは、部下をまとめ上げることに苦労する。さらに、恋人のシンタ・カズが焚火の前で良い雰囲気になると、思わず嫉妬で割り込んでしまう。ヴェルを支援する黒幕で、前回までは底知れなさを醸し出していたルーセン・レイエルも、決行を前に不安を隠せない。通信機に張り付き、脱出用の荷物をしつこく確認し、キャシアンを引き入れたことへの後悔すら述べる。本当に、今作はよくできた人間ドラマだ。

    崩壊していく家族


     「家族」というのは、スター・ウォーズにとって大きなテーマだ。ヴェイダーは家族だった息子の声に応じ、正義の道を取り戻した。カイロ・レンは、両親と和解することで、パルパティーンに立ち向かう道を選んだ。スター・ウォーズにて、家族は肯定的に描かれてきた。




     だが、今回は一味違う。シリル・カーンは、家族である母親のことを疎ましく思っている。両者に愛がないわけではない。だが、とっくに成人した息子の能力を疑問視し、進む道を勝手に決めようとしてくる彼女は、一歩間違えれば「毒親」だ。そんな母親にカーンはうんざりしている。そして、自分の力を証明するためには、キャシアン・アンドーを捕らえるしかないと気づきつつある。




     今までは完全無欠なイメージのあったモン・モスマも、家族間でトラブルを抱えている。娘は反抗期の真っ只中。お母さんは外面ばかり気にしている、とモスマに強く反発する。だが、モスマは決めたことを守りなさいと正論を述べて、聞く耳を持たず。反抗期の娘に対する母親としてそれでいいのだろうか。さらに、夫にも反乱軍の活動を隠している。確かに夫は、帝国の圧政を受け入れている節はあるが、夫婦として、家族を危険にさらす決断を勝手に決める彼女は肯定しがたい。

     家族といえども、実際は様々な問題を抱えている。その事実をスター・ウォーズに落とし込んでいるのが今作だ。一方で、ただ否定的に愛のない家族を描いているわけでもない。家族の物語であるスター・ウォーズ。そこに連なる今作は、最後は何らかの落としどころを見つけるだろう。

    拡大する帝国と軍人の人間性



     帝国の力は圧倒的だ。ネミックが語っていたように、40もの暴力で、人々から自由を奪っている。拡大を続ける彼らは、惑星フェリックスにも帝国の支部を設置しようとする。また、キャシアン一行の上を通過するだけでTIEファイターは、威圧感がある。今作は、拡大していく帝国の恐怖を十二分に描いている。

     一方で、未だに帝国の象徴であるストームトルーパーは登場しない。代わりに、顔があらわとなった兵士や士官が登場し、帝国軍人の人間性が強く表れている。




     帝国保安局の将校デドラ・ミーロは、反乱組織のしっぽを掴もうと躍起になっている。組織的な反乱が存在するという自分の勘に半信半疑な彼女は、助手には残業しないように促す優しさを見せる。しかし、ミーロを信じている助手は、ともに苦難を乗り越えようと彼女を励まし、共に残業する。強い信頼関係に結ばれた理想の上司と部下だ。

     また、アルダーニに駐屯する兵士も、誰もが人間らしい。冬期休暇を取り上げられることを恐れたり、「アルダーニの目」を見たいと上司に懇願したりと、とても悪人とは思えない。惑星フェリックスで長官に任命された大尉も、名誉欲という、人間の当たり前の欲に従っている。

     繰り返しになるが、今作は、やはり人間ドラマだ。その対象は、主人公の側である反乱分子だけでなく、悪役の側である帝国の兵士たちも含まれる。彼らは同じ人間だが、少しの違いに翻弄され、争い合ってしまう。この人間ドラマで、その悲劇がより際立つだろう。

    豆知識


    ブルーミルク
    シリル・カーンは、現実世界でもおなじみのシリアルを食べている。そして、そこに帰る牛乳は青い「ブルーミルク」だ。『EP4/新たなる希望』に初登場したブルーミルクは、もはやスター・ウォーズの食事の代名詞になりつつある。

    メイルーラン・フルーツ
    カーン家の食卓には、メイルーラン・フルーツも並んでいる。これは、『反乱者たち』でヘラ・シンドゥーラの好物として初登場した果物。ドラマ『ボバ・フェット』にも登場した。

    モン・モスマの娘
    今回、モン・モスマの娘としてレイダ(Leida)が初登場した。レジェンズ(旧設定)でも、娘は居るという設定があったが、こちらは綴りが少し違ってリーダ(Lieda)。ちなみに、レジェンズでは、ヴェイダーにホスの戦いで殺された息子も居た。

    レーザー砲
    アルダーニの基地では、『EP5/帝国の逆襲』で、反乱同盟軍がホスの戦いで使用したレーザー砲1.4 FD Pタワーが設置されている。

    惑星名
    帝国保安局内で、デドラ・ミーロは、反乱活動が行われた地域として、なじみ深い地名を挙げている。ホズニアン・プライム、ケッセル、フォンドア、ジャクーなど。

    インペリアル・シャトル
    アルダーニでの移動中でのひと悶着にて、ネミックは帝国の船が近づいてきたと警告する。この時の船影からして、この船は、インペリアル・シャトル(ラムダ級T-4aシャトル)のようだ。

    サンカラ・ストーン

    ルーセンのコレクションの中には、ジョージ・ルーカスが原案の『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』より、サンカラ・ストーンが登場している。粋なイースターエッグだ。


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    画像は、ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022年 Lucasfilm)より引用

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