【考察・感想・豆知識】ドラマ『キャシアン・アンドー』 第九話:SW版パノプティコンと予想外のキャラの行動

2022/11/03

キャシアン・アンドー レビュー

t f B! P L

 


  • 第九話「誰も聞いちゃいない!(Nobody's Listening!)」
  • 監督:トビーヘインズ
  • 脚本:ボー・ウィリモン
  • 評価: ★8.6/10(IMDbユーザー評価)


今回の第九話は、今まで一番面白い一話だった。キノ・ロイやシリル・カーンの予想だにしない行動はもちろんのこと、ディストピアを体現した刑務所、断末魔を使用した拷問など、設定も魅力的で引き込まれた。50分が一瞬のようだった。キャラクターにも愛着が湧いてきたところなので、このシリーズが来シーズンで終わってしまうのがもったいなく感じる。


「パノプティコン」の刑務所




無実の罪でナーキーナ・ファイブの刑務所に収容された主人公のキャシアン・アンドー。だが、持ち前の反骨心を活かし、一か月間、脱獄計画を密かに進めていた。トイレではパイプの切断を試み、仲間からは新人を入れるタイミングが看守を狙えるタイミングだと聞き出す。そして、囚人のリーダーのキノ・ロイには、「看守は何人だ?」と質問する。しかし、キノは、協力を断固として拒否する。逆らわなければやがて出所できると信じる彼は、帝国側に話が聞かれていることを極度に恐れていた。帝国が自分たちのことを気にもかけていないと知っているキャシアンは、思わず「誰も聞いちゃいない!」と叫ぶ。

そんなある日、停電騒ぎが起こる。何やら二階で騒動があった様子。後に他のシフトの囚人から、二階の囚人が皆殺しされたことを知らされる。囚人たちに動揺が走るが、キノはなだめる。「あくまでも噂だ。何も聞いていないことにしろ。・・・事態が分かるまでは」。一見帝国に従順なキノだが、忠誠心で動いているわけではない。当然、疑念を抱く。




やがて、キャシアンと同じ班の老人ウラフが倒れる。前々から体調が悪そうなウラフの動きをキノは気にしていた。今までの印象では、キノは、ウラフののろまさを腹立たしく思っているように見えた。だが、実際は反対だった。キノは、同じ囚人仲間であるウラフを大切に思っていた。苦しむ彼を「あと少しで家に帰れる」と言って励ます。しかし、刑務所の医者ではどうにもできない状況だった。死に行く人の「名前は知りたくない」と語る医者は、「誰も私には救えない」と嘆く。そして、キャシアンとキノに先日の騒動の真実を明かす。「刑務所からは誰も出られない。出所したはずの人間は、別の階に送られる。それを知った二階の人間は皆殺しにされた」。

真実を知ったキノは、帝国が信頼に値しない組織だと気づいた。そして、「看守は何人だ?」というキャシアンの再びの問いかけに、「多くて12人だ」と返す。帝国の裏切りにより、新たな反乱者が生まれ、脱獄計画は進展する・・・。




帝国が管理する究極のディストピア、ナーキーナ・ファイブの刑務所は、まさにベンサムの考案した「パノプティコン」だ。一望監視施設と訳されるパノプティコンは、「一望できる塔から自分が常に監視されているかもしれない」という恐怖を囚人に抱かせることで、囚人の管理を容易にする刑務所のシステム。パノプティコンによって規律化されたキノ・ロイのような人物は、自ら逆らう選択肢を無くす。そして、フーコーが指摘するように、これは刑務所以外の社会にも当てはまる。帝国は、恐怖を抱かせることで、社会全体の人間を規律化できる。キノのような本来は仲間思いの人間でも、進んで規範の歯車になり果てる。

だが、結局、二人が医者から真実を知りえたことからわかる通り、帝国側は、「誰も聞いちゃいない」。パノプティコンによる管理社会を破壊するためには、過度な恐怖を抱かないキャシアンのような人間が必要だ。




そのキャシアンは、『ローグ・ワン』にて、デス・スターの設計図を送信した後、不安げにジン・アーソに問いかける。「誰か聞いたかな?」。ジンは答える。「誰かに届いている」。実際にレイア・オーガナは、彼らの希望を確かに受け取った。最終的に勝利するのは、人々を抑圧し、その声を封殺する銀河帝国ではなく、声に耳を傾けられる反乱同盟軍だ。


優秀な監査官とストーカー




帝国保安局(ISB)の監査官デドラ・ミーロは、キャシアンの幼馴染ビックス・カリーンの身柄を抑えた。「私は反乱分子だけを見極め、処罰する」と語るデドラは、“反乱分子ではない”ビックスに自発的な協力を求める。だが、ビックスは頑なに拒否する。デドラは、多くの市民が帝国に反発しており、反乱分子かそうでないかはわずかな違いであることに、まだ気づいていないのかもしれない。

デドラから尋問を任されたゴーストは、嬉々として尋問方法を語る。曰く、「エイリアンの子供の断末魔を調整し、精神を攻撃する音を作り出した」。完全に、マッド・サイエンティストだ。その音をビックスが聞き始めると、ドラマは無音になり、そして悲鳴が聞こえる。恐怖を掻き立てられる良い演出だ。結局、ビックスは知りうる情報を喋ってしまう。ただ、「アクシス」ことルーセン・レイエルの顔を知る証人として命を長らえることは出来た。

情報を得たデドラは、ルーセン・レイエルへ渡った帝国の品を把握。さらに、キャシアンがアルダーニ要塞の襲撃に加わった事実まで迫る。彼女は、キャシアンの義母のマーヴァ・アンドーを泳がし、彼をおびき寄せる餌にするつもりだ。




一方、前回デドラから冷たくあしらわれたシリル・カーン。過干渉な母親とは未だに不仲だ。息子のカーンを認めようとしない母親が気にするのは、世間体や社会的ステータス。息子の本質には興味がない。そんな家庭環境のシリルは、もう一度デドラに会おうとする。わざわざ保安局の前に通い、彼女を雑踏から見つけ出す。そして、畳みかける。「君には嘘をつかない」。「話し合いの続きを」。「君のおかげで人生には生きる意味があると気づいた」。「銀河には正義と美しさがある」。「君と進めば、素晴らしい運命が待っているはずだ」。「感じるんだ、僕と君は同じものを欲している」。・・・完全にストーカーだ。自分の実力と考えを認めてくれたという思い込みから、デドラと共に歩もうとする。これには、思わずデドラもタジタジ。

二人はさておき、帝国軍は検問で反乱分子を捕らえることに成功した。ゴーストによる尋問の結果、アント・クリーガー派の戦闘員であること、スペルハウスの襲撃計画があることを知った。この計画は、前回ルーセン・レイエルが、ソウ・ゲレラに話していたものだ。デドラが、ビックスから盗品リストを入手したことで、この計画は「アクシス」へと結びつくことになる。とうとう黒幕のルーセンは、表舞台に引きずり出される・・・。




最初は男性社会で不当な立場に置かれているデドラ・ミーロを応援したくなったが、実力が認められた今となっては、優秀で恐ろしい悪役だ。彼女の迅速な行動により、ルーセン・レイエルの正体や反乱活動の全貌が明らかになりつつある。だが、そんな順風満帆なデドラの前に立ちはだかったのが、同じく悪役のシリル・カーンだ。"毒親"のせいで暴走する彼は、ストーカーと化しており、その行動は予測がつかない。だが、帝国を思っているという点で、二人は一致している。今後、よきパートナーになるのか、それともシリルが暴走し続けるのか。展開が楽しみだ。


モン・モスマの孤独な苦悩




シャンドリラ選出の元老院議員、モン・モスマ。元老院で、帝国の暴走に警鐘を鳴らすが、多くの議員はまともに取り合わない。民主主義の「聖堂」だった元老院は、瓦解しつつある。そんな折に、モスマの従姉妹が家を訪ねてくる。その人物は、ルーセンと共に反乱活動に勤しむヴェル・サーサだった。モスマはヴェルの身の安全を案じるが、ヴェルは「私たちは誓ったはず」と答える。

久しぶりに会ったモスマ一家とヴェルは、家族団らんの食事会。だが、夫のペリン・ファーサは余計なことしか喋らない。「政治家になったらつまらなくなる」と、妻を攻撃したのかと思えば、今度はヴェルに「夫探しはしないのか?」と、結婚ハラスメント。ヴェルに女性の恋人が居ることも考慮すると、かなり配慮に欠けた発言だ。それをヴェルは華麗にスルー。モスマは思わず微笑みが漏れる。別れ際、ヴェルは「暗黒と戦うために命を捧げている」と見栄を切る。前回、恋人のシンタとの別れをあれほど嫌がっていたのに。モスマはその言葉に勇気づけられるが、これがヴェルの本心からの言葉でないことに気付けない。




モスマのもう一人の仲間、テイ・コルマはなんとか帝国の監査をごまかし、反乱活動に流れた40万クレジットを隠蔽しようとしていた。預金額を回復させればいいのだが、いかんせんお金が足りない。苦肉の策で、チンピラの銀行家ダヴォ・スカルダンの協力を取り付ける。だが、モン・モスマは乗り気ではない。何を代償として要求されるか分からず、彼女にとっては、彼の訪問さえも受け入れ難い。モン・モスマは苦悩する。・・・もし、アルダーニの要塞から大金を盗み出したグループと協力できれば、全ては解決しそうだが、果たして?




モン・モスマも、政治家としては厳しい戦いを強いられている。大義のためには、信念を曲げざるをえない。そして、同時に家庭環境も複雑だ。夫はモラハラ気味で、娘ともうまくいってない。だが、娘が気に入っているドレスに「お父さんが怒るんじゃない?」と語る彼女も、良き妻、良き母親とは呼べないだろう。家庭でも孤立し、同士であるヴェルやルーセンとも奥底では反目し合う彼女は、孤独な厳しい立場に置かれている。そして、彼女は望んでいないはずだった暴力が伴う反乱へと身を投じることになる。


豆知識

『EP4/新たなる希望』尋問シーンとの対比
今回、ビックスは帝国保安局による激しい拷問を受ける。拷問シーンのすぐ後にドアが閉まり、帝国軍人のブーツの音が鳴り響く演出は、『EP4/新たなる希望』へのオマージュ。


ティーゴの出世
帝国軍人のヴァニス・ティーゴは、第五話で惑星フェリックスの帝国守備隊の隊長に任命された。階級章が変更されており、彼が中尉から大尉に出世したことがわかる。


モン・モスマの家族関係
今回で、ヴェル・サーサがモン・モスマのいとこであることが判明した。モン・モスマの夫の苗字ファーサと、ヴェルの苗字サーサは似ているので、この二人がいとこ同士?


カフリーンの環

帝国保安局の会議では、「カフリーンの環」という単語が登場。この宇宙ステーションは、『ローグ・ワン』の冒頭で、キャシアンが情報収集を行っていた場所だ。

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ユーザー評価は、記事執筆時点。画像は、ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022年 Lucasfilm)より引用。

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