【考察・感想・豆知識】ドラマ『キャシアン・アンドー』第十一話:ローグ・ワンへと繋がる悲しみ

2022/11/17

キャシアン・アンドー レビュー

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  • 第十一話「フェリックスの娘(Daughter of Ferrix)」
  • 監督:ベンジャミン・キャロン
  • 脚本:トニー・ギルロイ
  • 評価: ★8.6/10(IMDbユーザー評価)



悲痛な死




惑星フェリックス。キャシアンの義母のマーヴァ・アンドーが亡くなった。B2EMO(ビー)は悲しみに悶えるように震え、涙に見立てられたコップの水が揺れる。B2EMOは、「マーヴァと一緒に居たい。独りになりたくない」と、ブラッソに訴える。彼は、その死を受け入れられていない。

「フェリックスの娘」たちの一員で、地元の名士だったマーヴァの死を多くの住民が悲しんでいる。だが、そこに冷たい目線を向ける者が二人。一人は、反乱分子のシンタ・カズ。もう一人は、帝国軍のスパイだ。二人とも、キャシアンの身柄を追っている。帝国保安局(ISB)の監査官であるデドラ・ミーロは、マーヴァの葬式の開催を許可し、キャシアンをおびき出すと決めた。二日間の葬式の後、慣例に従い、マーヴァの死体は、街の壁を構成するレンガの一つとなる。

B2EMOは、夜になっても頑なに家を離れようとしなかった。充電が終わっても、充電台から動こうとしない。マーヴァはもう居ないとブラッソが諭しても、ならば自分で確認すると主張する。その健気さにブラッソも一晩だけマーヴァの家に留まることを認めた。人間ではないドロイドのB2EMOだが、多くの時間を共に過ごした分、誰よりもマーヴァの死にショックを受けている。

一方、帝国に捕らえられたキャシアンの元恋人のビックス・カリーンは、憔悴しきっていた。想像を絶する音で拷問された彼女の心は折れている。そんな彼女を引きずり出し、帝国軍は問いかける。「お前がキャシアンに紹介したのは、このアント・クリーガーか?」。ビックスは迷う。再びの拷問から確実に逃れるために本当のことを言うべきか、キャシアンを守るために嘘をつくべきか。恐怖に屈するか否か。




マーヴァの死を受け入れられずに帰りを待つB2EMOは、忠犬のようであり、幼い子供のようであり、心を打たれた。ドロイドの感情は顔には出ないが、巧みな演出で共感できるようになっている。K-2SOでもそうだったが、ドロイドの感情描写は、スター・ウォーズが得意としてきた描写の一つだ。

マーヴァの突然の死に我々観客も驚いたが、これこそがリアル志向。人の死は、突然訪れる。だが彼女は死の間際に、体調を崩し、薬を拒否してまで何かの計画を練っていた。その遺産を受け継ぎ、活かすのは生きているブラッソであり、ビックスであり、そしてキャシアンだ。彼らは、帝国のもたらす恐怖に打ち克ち、立ち上がれるのだろうか。


守るべきものに悩む二人




アルダーニ襲撃のリーダーのヴェル・サーサは、黒幕であるルーセン・レイエルの骨董品店を訪ねる。ルーセンの右腕であるクレヤ・マーキは、その安直な行動にいらだちを隠せない。「いつもうろたえた人間が、物欲しげに窓から顔を覗かせる」と非難の言葉まで口にする。だが、ヴェルは、一刻も早くマーヴァの葬式について伝えたかった。もちろん、それは恋人のシンタの身を案じるからこそだ。情報の重要性に気付いたクレヤは、ルーセンに伝えると約束した。

惑星フェリックスへと向かう前にヴェルは、従姉妹のモン・モスマのもとを訪れる。そこでは、モスマの娘のリーダが、惑星シャンドリラの伝統的な句をよみあげていた。古臭い風習を持ち出していることに驚くヴェル。リベラルなモスマは、ワインを片手に苦い顔。この伝統を尊重しているのは、他でもないリーダなのだ。「復古主義が最近の流行り」と、モスマ。リベラルな親への反発で、娘は保守的な思考に走っている。

モスマは、信頼できる同志のヴェルに悩みを打ち明ける。帝国の監査で反乱活動が露呈しないか不安になり、危険を承知でテイ・コルマに頼った。うまく行きそうだったが、アルダーニ事件で事態が悪化した。自分のせいで、従姉妹が追い込まれていることを知り、ヴェルは絶句。彼女の反乱は正しかったのだろうか。




ヴェル・サーサと、モン・モスマ。同じシャンドリラ人で、理想を共有しながら、別々の道を歩む二人。そんな彼女たちには、もう一つの共通点がある。二人とも、反乱という大義にも代えがたい大切な人が居る。ヴェルは恋人のシンタを、モスマは娘のリーダを何よりも想っている。ヴェルは、恋人の受け売りで「反乱が第一」とモスマに語ったが、それは本心ではない。だが、この戦争では甘ったれた考えは許されない。二人は、犠牲にできるのか。

普段はイメージをうまく保っているモスマだが、今回ばかりは完全に参ってしまっている。酒を片手に、弱音を吐く。一人の人間である彼女の弱さが、ルーセンを追い詰め、アルダーニ事件を誘発し、自分の首を絞めてしまった。反乱の大きな転機も、この弱さから始まった。それを知っているからこそ、彼女は非情になる選択肢を捨てきれない。そして、それを正当化する条件は揃ってしまっている。反乱のために、そして伝統を重んじるリーダのためにも、お見合いと資金提供を受けてもいいのではないか。そんな考えが頭をよぎる。モスマはもう後戻りできない場所にいる。家族か、反乱か。どちらかを捨てなくてはならない。

「戦争」


帝国標準局でうだつが上がらない日々を送っている元捜査官のシリル・カーン。母親からは嫌味を言われ、自分にとって理想の人間だったデドラ・ミーロからも拒絶される。悶々とする日々。そんな折に、元部下のモスク分隊長から、キャシアンの母が死んだという報告を受ける。シリルは決心する。金庫からお金をくすねて惑星フェリックスへ。全てを変え、自分を取り戻すために。キャシアンを捕えなければ、彼の人生は変わらない。




スパイを各地に忍ばせる黒幕のルーセン・レイエルは、反乱分子の大物ソウ・ゲレラの下を再び訪れた。何かに苛立つソウは、断ったはずの以前の提案を飲み、アント・クリーガーと共に帝国を襲撃すると告げる。焦るルーセン。その計画は既にISBに漏れている。このままでは、重要人物のソウを失い、さらに自分の身元も割れかねない。ルーセンは、全てを話し、彼を止めた。

「彼らを見殺しにする気か?」。ソウは信じられないという顔で問い詰める。そして、病的な被害妄想に駆られる。「お前はISBか?」「ここにもスパイを送り込んでいるのか?」。ルーセンは慎重かつ大胆にソウを諭す。「ISBに隙を生じさせるために、クルーガーと三十人を犠牲にする」。「私の顔を知っている君を裏切ることはない」。渋々納得したソウは、これを「戦争と呼ぶ」ことにした。戦争に勝つためには手段を選べない。




その後、ルーセンはクレヤから「例の品」ことキャシアンについての情報を聞く。クレヤは無視するように告げるが、ルーセンは「店をたたむハメになりかねない」と執着を見せる。彼もモスマと同じく、不安に駆られてしまう一人の人間だ。

この通信の途中で、ルーセンの船は帝国のトラクター・ビームに捕まった。穏便にやり過ごそうとするが、訓練がしたい帝国軍側は強硬姿勢だ。仕方なく、ルーセンは船の秘密兵器を起動させた。トラクター・ビームの発生装置にミサイルを撃ち込み、隠していたレーザー砲とビーム兵器で、TIEファイターを撃墜する。あまりに鮮やかな手際に、帝国軍人は言葉を失う。トラクター・ビームへの対応やビーム兵器は、珍しい描写であり、ワクワクした。




キャシアン・アンドーを巡り、登場人物たちが惑星フェリックスへと集合しつつある。そのきっかけは、マーヴァ・アンドーの死であり、この物語が二人の「アンドー」を中心に動いていることがうかがえる。

ルーセン・レイエルは、「大義のために」冷徹に人間を切り捨てる。その姿は、『ローグ・ワン』のキャシアンにも重なる。その行動が正しいかは別として、彼のような表に立てない汚れ役が居たからこそ、反乱同盟軍は勝利した。狂気に駆られるソウに、堂々と冷静に立ち向かっていくルーセンは、間違いなく傑物だ。しかし、一方で自分の身元が割れることを恐れる小心者でもある。この弱点は、全てを犠牲にしなくてはならない「戦争」におけるルーセンの命取りになりかねない。


『ローグ・ワン』の最期と重なる描写




前回脱獄した主人公のキャシアン・アンドーは、同じ班の囚人だったルースコット・メルシと共に、脱出するための船を探していた。無警戒なエイリアン二人から船を奪おうと走り出すが、それは罠だった。帝国の刑務所が海を汚し、魚を殺したことを恨む二人は、彼らを捕える。だが、必死の訴えが功を奏してか、エイリアンは心変わりする。「今日はまだお前たちは何も殺していない」。帝国の横暴さにより、一般人たちにも、反抗心が芽生えている。

惑星ニアモスで、隠していたお金、銃、宣言書を回収するキャシアン。さっそく、故郷フェリックスで待つマーヴァへと連絡を取る。「いつも母さんのことを考えている」。「いつか誇れる人間になって帰るから」。だが、その声は、冷たくなったマーヴァに届くことはなかった。




砂浜で悲しみに打ちひしがれれるキャシアン。それでも、隣に立つメルシには、本心を明かさない。メルシは一緒に逃げ延びた戦友だが、キャシアン・アンドーという本名すらもひた隠しにしている。一方、メルシは、大きな決断をしていた。「生き残ったのは俺達だけかもしれない。誰かが帝国の非道さを伝えないと」。メルシは、義憤に駆られ、反乱の道を歩み始めた。その覚悟を見たキャシアンは、彼に自らの銃を託して、別れた。再びキャシアンは孤独な道を歩み始める・・・。




「誇れる人間になって帰る」というキャシアンの台詞と、砂浜というロケーションは、『ローグ・ワン』のスカリフの戦いの最期を彷彿とさせる。死の直前、砂浜で迫りくる破壊を眺めながら、キャシアンはジンに告げる。「君のお父さんは誇りに思っているだろう」。その言葉の裏には、自分も誇れる人間になれたという思いがある。今回の砂浜のシーンから五年後、ようやくキャシアンは「誇れる人間としてマーヴァの所へ行ける」のだ。

家族を大切に思っているキャシアンは、これから葬式へ参列するために惑星フェリックスへ向かうだろう。だが、最終回で、この街は破壊されるのではないだろうか。そして、戻るべき家、戻るべき故郷を失ったキャシアンは、寄る辺を求め、反乱の大義へと身を捧げることになる。ルーク・スカイウォーカーが家族を失い、旅立ったのと同じように、キャシアンも主人公として新しい道を歩む。


豆知識


タイ・リーパー
ナーキーナで、脱獄した囚人を空から追跡していたのは、映画『ローグ・ワン』にも登場したTIE/rpリーパー攻撃着陸艇。スカリフの戦いでは、デス・トルーパーを運んでいた輸送船だ。


クアッドジャンパー

キャシアンとメルシの二人が乗るエイリアンの船は、映画『フォースの覚醒』に登場したクワッドリジェット積み替え牽引船、通称クワッドジャンパーだ。映画では、ジャクーから脱出する際にレイが乗ろうとするが、タイ・ファイターに吹っ飛ばされ、空へ飛び立つことはなかった。


オルデラン
帝国の検問にひっかかりそうになったルーセン・レイエルは、船の人工知能に、オルデランの偽IDを用意するように求める。オルデランは、『EP4/新たなる希望』でデス・スターに破壊された惑星だ。反乱同盟軍の主要メンバーであるベイル・オーガナの故郷なので、その伝手で手に入れたのだろうか。


キャントウェル級

ルーセン・レイエルを追跡する帝国の戦艦は、キャントウェル級アレスター・クルーザー。『EP4/新たなる希望』制作時のスターデストロイヤーのコンセプトアートを再利用したデザインだ。映画『ハン・ソロ』では、新兵募集の映像の中にも登場している。同映画の削除されたシーンでは、ミレニアム・ファルコンをトラクター・ビームで捕まえるシーンがあった。


エイリアン
今回は、印象的なエイリアンが何人か登場した。
キャシアンを捕まえた漁師のうち、標準語を喋るエイリアンの種族はケルディアン。同じ種族のメンバーが、『ローグ・ワン』ではパルチザンの一員として登場していた。
また、惑星ニアモスで、キャシアンが泊まっていた宿に寝ていたエイリアンの種族は、ブルートピアン。同じ種族のメンバーが、『ローグ・ワン』では、ジン・アーソと同じ監房に収監されていた。


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ユーザー評価は、記事執筆時点。画像は、ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022年 Lucasfilm)より引用。

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