【考察・感想・豆知識】ドラマ『キャシアン・アンドー』最終話(第十二話):悪の帝国を打倒する民衆の力

2022/11/26

キャシアン・アンドー レビュー

t f B! P L

 


  • 第十二話「リックス通り(Rix Road)」
  • 監督:ベンジャミン・キャロン
  • 脚本:トニー・ギルロイ
  • 評価: ★9.3/10(IMDbユーザー評価)

ドラマ『キャシアン・アンドー』が、堂々の完結!民衆という新たな視点を取りいれた今作は、ファンからも概ね高評価であり、スター・ウォーズ史上に残る作品となった。シーズン2は既に撮影を開始しており、再来年には配信される見込み。


モスマの払った大きな犠牲




密かに反乱活動へ資金を提供している元老院議員のモン・モスマ。銀河帝国の監査により、その秘密の活動が露呈しようとしている。反乱をとるか家族を取るか。苦悩の末、とうとうモン・モスマは非情な決断を下した。まずは、夫のペリン・ファーサにギャンブルで資産を使い込んでいるという濡れ衣を着せ、車内で喧嘩を吹っ掛ける。運転手は帝国保安局(ISB)の協力者であり、保安局は不審な金の流れが、夫のギャンブル中毒によるものだと騙された。

そして、さらなる資金を確保するために、ならず者の銀行家ダヴォ・スカルダンからの提案を飲む。夫に責任を転嫁する策を講じたので、ダヴォを始め、周りの人間は資金提供を怪しまない。自身もお見合い婚で苦労したにも関わらず、モスマは娘のリーダとダヴォの息子のお見合いを承諾した。リーダは不安げに母のモスマを見つめるが、モスマは彼女と目を合わせることはない。




モスマは、家族と反乱を天秤にかけた結果、反乱を選んだ。表向きは家族を愛するイメージを保ちつつも、夫との仲も、娘の人生も、大義のための犠牲とした。夫ペリンは、「誰かがモスマに嘘をついている」と告げる。モスマはそれに同意した。彼女に嘘をついているのは彼女自身なのだ。第十話でのダヴォとの会談では、彼女の「家族を最優先にする気持ち」が嘘だと看破されていた。プライベート全てを捨てたモスマが歩むのは、ルーセン・レイエルと同じ修羅の道。そして、この決断は表に出るべきではないリベラル政治家、モン・モスマの汚点となる。


キャシアンが受け継ぐ思い




マーヴァ・アンドーの葬式の前日。惑星フェリックスのガラクタ屋で、少年が爆弾を組み立てていた。彼の名前は、ウィルモン・パーク。ルーセン・レイエルと繋がっていたことで、帝国に連行されたサルマン・パークの息子だ。父のホログラム写真に見守られながら、彼は復讐を企てる。その姿は、義父を帝国に殺されたキャシアンにも重なる。

反乱分子のヴェル・サーサは、キャシアンの待ち伏せを口実に惑星フェリックスへと降り立った。その本当の目的は、恋人のシンタ・カズとの再会。しかし、シンタは帝国保安局の追跡に執心し、ヴェルなど眼中にない。ストームトルーパーに家族を殺されたシンタも、大義という名の復讐に囚われている。

キャシアン・アンドーを巡り、多くの登場人物が惑星フェリックスに集まる。アクシスへの手がかりとしてキャシアンを求める帝国保安局のデドラ・ミーロ。かつてキャシアンに部下を殺され、キャリアを破滅させられたシリル・カーンモスク。キャシアンの口から自分がアクシスだと漏れることを恐れるルーセン・レイエル。それぞれが、キャシアンの人となりを考慮せずに、ただ自分の目的のために彼を狙う。




一方、帰郷したキャシアン・アンドーは、義父のクレム・アンドーのレンガの前に立つ。遺骨をレンガに加工する文化のフェリックスでは、これが墓標なのだろう。彼は、父との思い出を回想する。「誰も錆の下を見ていない。目をきちんと開けば、可能性が見つかる」。商売の上での教えではあるが、後のマーヴァの演説と重ねると、反乱の神髄を捉えた言葉に思える。

さらに、彼は、アルダーニの襲撃事件で死亡したネミックの宣言書(マニフェスト)も開く。「帝国の支配は綱渡りで脆い。自由を求めるのは根源的な意志だ。どこでも反乱の最前線だ。大きな波を起こせ。挑戦しろ」。ネミックの宣言は青臭い。だが、恐怖で人を押さえつけるしかない帝国の本質をついている。支配されている人々が立ち上がれば、その支配は崩壊へと向かう。

翌日、キャシアンは親友のブラッソと再会し、熱く抱き合う。ブラッソは、マーヴァからキャシアンへの最期の言葉を預かっていた。「お前は反乱の最初の火花となっただけで悪くない。お前は知るべきこと、感じるべきことが分かっている。善き方向へ向かうだろう。どんな過ちを犯しても、愛し続ける」。その言葉を胸にキャシアンは、帝国に囚われた元恋人のビックス・カリーンを救いに行く。自分だけの身を守るには「もう遅い」と言い残して。彼は、その身を大義の為に捧げることを決めた。




キャシアン・アンドーは、ウィルモンやシンタのように復讐に身を捧げる人間ではない。だが、周囲を忘却してしまうような冷徹な人間でもない。妹を救おうと捜索したり、ビックスを単身で助けようとしたりするほど、周囲に思いやりを持てる人間だ。彼は、良き家族、良き仲間、良き故郷に恵まれてきた。だからこそ、その思いを受け継ぎ、大義へと身を捧げることを決めた。

『ローグ・ワン』の序盤では、彼が大義のために手段を問わない汚れ役にしか思えなかった。だが、観客が追っていたのは、彼のイメージだった。キャシアンを狙うデドラやシリル、ルーセンと同じように、その役柄で判断を下していた。このドラマで、キャシアンという人間の人となりを知った後だと、『ローグ・ワン』を新たな視点から眺められる。今作は、素晴らしい人間ドラマだ。


名もなき民衆の反乱




葬式開始予定時刻の数時間前。突然、街に鐘が鳴り響き、ブラスバンドが演奏を始める。あちこちから人々が集まり、リックス通りへと歩を進める。フェリックスの文化に寄り添うのではなく、力で支配してきた帝国軍には、その真意が分からない。故郷に根付いた人々の心は、よそ者には理解しがたい。侵略者が常に敗北する理由が描かれる。

奏でられるのは、ドラマ『キャシアン・アンドー』のテーマにも似た、荘厳でゆったりとしたテンポの曲。その音に、囚われたビックスも勇気づけられる。死者を弔う曲が、人々を鼓舞する。転調すると、人々は恐怖の象徴である帝国に詰め寄り始める。「石と空!」「石と空!」「石と空!」。




リックス通りにたどり着くと、マーヴァの生前のメッセージが流された。死者がレンガとなり、街の礎となるフェリックスの文化に励まされてきたマーヴァは、今度は死者となった自分が周りを鼓舞したいと願っている。死者の自分が簡単に戦えと言うべきではないことを理解しつつも、皆に前に進んで欲しいから、彼女は語り掛ける。「フェリックスは眠り、帝国の一部になっていた。その間に、帝国は錆のように侵食し、力を蓄えてきた」。彼女は自分たちが帝国を黙認してきたことを直視し、遅いかもしれないことを承知で、呼びかける。「やり直せるなら、眠りから目を覚まし、このクソどもと戦う。さぁ帝国と戦え!」

フェリックスの住民は立ち上がった。無駄かもしれないと知りつつ、「挑戦」した。「錆」に覆われた自分たちの本質を取り戻すために。恐怖はない。あるのは、圧政者に対する怒りと、フェリックスの住民としての誇りだ。ブラッソはマーヴァの遺骨から造ったレンガを振り回す。死者と共にある人々は、兵士に次々と襲い掛かる。帝国は、彼らを押さえつけられない。やがて、ウィルモン少年が爆弾を投げ込み、諍いは激化。とうとうストームトルーパーが発砲し、多くの住民が虐殺された。だが、彼らは負けたわけではない。無駄だったわけではない。この小さな流れは、やがて大きな波となり、帝国を呑み込むのだ。

デドラ・ミーロ監査官は、群衆に圧倒される。男社会を渡り歩く精神の強靭さを誇る彼女も、実際の暴力にはかなわない。シリル・カーンの助けでなんとか逃れることが出来た。心には深い恐怖が残る。混乱のさなか、シンタは帝国保安局の職員を殺す。血を手に付けた彼女をヴェルは心配するが、その思いやりはシンタには届かない。




混乱に乗じ、キャシアンはビックスを救出。心を折られて変わり果てた彼女を支え、脱出艇へと運ぶ。待っていたのはブラッソ、B2EMO、ウィルモン少年、フェリックスの娘のメンバー。キャシアンは、ビックスを託し、B2EMOに「ビックスを頼む。頼りにしている」と声をかける。「いつもそう言う」と不満を漏らすB2EMO。キャシアンは微笑みつつ、「いつも頼っているからだよ」と返す。今生の別れを予感させる場面だ。しかし、ビックスはつぶやく。「キャシアンは私たちを見つける」。キャシアンは再会すると約束し、進むべき自らの道へと足を踏み出した。

町はずれの船に戻ってきたルーセン。船内には、驚きの客、キャシアン・アンドー。何かしらの取引かと身構えるが、キャシアンが望んでいたのは単純なことだった。「俺を殺すか、仲間にするか」。ルーセンにとっては、今日は喜ばしい日だ。彼の目論見通り、圧政から反乱が芽生え、さらに自分に忠誠を誓う部下まで手に入った。思わず、笑みがこぼれる。

クレジット終了後。作業中のドロイドが映し出される。その手には、ナーキーナ5でキャシアンたち囚人が組み立てていたパーツが。カメラは引いていき、そのパーツが、デス・スターの一部だったことが明かされる。キャシアンは、自分を殺すことになる兵器を自分で作っていた。皮肉で、恐ろしい結末だ。




今までのスター・ウォーズが英雄たちの戦いを描いた「神話」だった一方、今作の『キャシアン・アンドー』は、民衆たちの戦いを描いた「人間ドラマ」だ。我々と変わらない一般人が立ち上がる姿は、我々をより勇気づける。フェリックスの人々が立ち上がった理由は、今作の全体の流れやクレム、ネミック、マーヴァの言葉で詳しく説明され、強い説得力を持つ。一方で、死者の思いを継ぐという構図は、『EP4/新たなる希望』も『キャシアン・アンドー』も変わらない。

また、帝国の敗北の要因も端的にまとめられていた。彼らは、被支配層を理解せずに、力で抑えつけられると慢心している。単純なキャシアンは葬式の罠に飛び込む、恐怖を抱くだけの葬式の参列者は自分たちに従う、と錯覚する。「自由を求めることが根源的な意志」であることを理解せず、フェリックスの人々の連帯を甘く見ている。民衆の力を侮った結果、彼らは敗北する。

今回のフェリックスの描写は、アラブの春、雨傘革命、香港民主化デモなどを代表とする近年の民主化運動をモデルとしている。これらの現実の運動は、多くの敗北を経験し、必ずしもうまく行っているとはいいがたい。だが、それでも、その民主化運動を応援するのが今作だ。今まで錆ついて本質を見失い、支配を黙認してきたとしても、今立ち上がるという挑戦をするべきだ。それが専制主義を打倒する大きな波に繋がるのだ。

今作は、配信ドラマという媒体を上手く利用している。群像劇や話の積み重ねで物語に深みを与えたのはもちろんのこと、共産党支配化の中国市場を意識した近年のスター・ウォーズ映画では描けない描写を取り入れている。力を持たない普通の人々にとっての、専制主義の恐怖。そして、普通の人々が恐怖に対して立ち上がる姿を描いた今作は、多くの人に勇気を与えるだろう。人を勇気づけることこそ、「スター・ウォーズの神髄」である。今作は紛れもなく名作だ。再来年公開のシーズン2にも期待したい。



豆知識


帝国の船
デドラ・ミーロが、惑星フェリックスまで乗ってきた船は、ラムダ級T-4aシャトル。『EP6/ジェダイの帰還』で初登場した輸送船だ。帝国の標準的な輸送船であり、皇帝パルパティーンも使用していた。また、発着場ではゼータ級重貨物シャトルも確認できる。こちらも、帝国の輸送船で、『ローグ・ワン』に登場した。ローグ・ワン分隊がスカリフへ乗り込む際に使用していた。


デス・トルーパー
帝国保安局のデドラ・ミーロ監査官は、エリート部隊であるデス・トルーパーを惑星フェリックスへと連れてきた。デス・トルーパーは、映画『ローグ・ワン』で初登場した。


カント・バイト
モン・モスマは、夫のペリンに「賭け事をするなら、カント・バイトでして」と言いがかりをつける。カント・バイトは、『最後のジェダイ』に登場したリゾート地。フィンとローズは、この地でマスター・コードブレイカーを探した。


帝国兵

リックス通りの封鎖を試みる際に、帝国軍は、ストームトルーパーではない一般兵を投入していた。この兵士の装備は、映画『ハン・ソロ』で確認できるものだ。


F*uk the Empire!
マーヴァは、演説を「Fight the Empire!」で締めくくる。しかし、リーク情報や監督がほのめかしたところによると、この部分は元々「F*uk the Empire!」だったようだ。ルーカスフィルム側がNGを出して、修正させられた模様。


中古船の店
第一話で確認されたように、フェリックスの中古船の店では、WTK-85Aや、Yウィング、VCX-100などのおなじみの船を確認できる。


初代デス・スター

ポストクレジット・シーンでは、初代デス・スターの建造風景が映し出される。このシーンで、ナーキーナ5で作られていたのがデス・スターのパーツだと判る。また、背景に映る惑星は、『ローグ・ワン』に登場したスカリフだ。


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ユーザー評価は、記事執筆時点。画像は、ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022年 Lucasfilm)より引用。

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