【レビュー・豆知識】ドラマ『スケルトン・クルー』第8話(最終話)「本当の正義の味方」

2025/01/19

スケルトン・クルー レビュー

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  • 第8話「本当の正義の味方(The Real Good Guys)」
  • 監督:ジョン・ワッツ
  • 脚本:クリストファー・フォード、ジョン・ワッツ
  • ユーザー評価★8.0/10 (IMDbより)

あらすじ

惑星アト・アティンにたどり着いたジョッド。彼は共和国の特使ジェダイを騙り子供たちが惑星の秘密を危険にさらしたと非難し、彼らをドロイドの監督下に置かせた。だが、ファーンは反発し、ジョッドは彼女とその母であるファラ監理官との面会に同行させることにした。ファーンの身を案じたウィムは、父ウェンドルや親友のニールとともに彼女を救いに行こうとするがドロイドの監視が厳しくチャンスを得られない。

監理官と面会したジョッドは、その正体がドロイドであることを知る。そして監理官はオーダー66のことを知っていたため、ジョッドの嘘に騙されなかった。拘束されそうになったジョッドはライトセーバーを起動し監理官を破壊する。ドロイドの電源と町の電気は失われた。そしてファラは彼の暴力に屈し、海賊船がバリアを通行することを許してしまう。

海賊のフリゲート艦が町を襲撃する。ドロイドの監視から解き放たれたウィムは、KB、ニールと合流し、そして父ウェンドルもつれてファーンの救出に向かう。KBの提案で一行は新共和国のXウィングに救助を要請することにした。海賊の追っ手を逃れつつウィムとウェンドルは監理官の部屋までたどり着き、ウィムがジョッドの気を引いてる隙に電力の復旧に成功した。KBはSM-33とともに<オニックス・シンダー>でバリアの外へと向かい、ニールは学校の大砲を起動し援護射撃をした。KBはバリアの外まで脱出しキムへの援軍の要請に成功する。だが、<オニックス・シンダー>は撃墜されてしまった。

ジョッドは余計なことをしたせいだ、バリアがあるのだから援軍は通れないと子供たちを責める。だが、ウィムとファーンはくじけることなくバリアを破壊しようとする。一度はジョッドがウェンドルにライトセーバーを突き付けウィムを止めるが、ウェンドルが殴り掛かったことで事態は乱闘になる。ジョッドはウィム、ファーン、ウェンドルをなんとか押しとどめるが、娘から説得されたファラが加わったことで状況は動き、バリアは破壊された。

新共和国のXウィングとBウィングが現れ、海賊は蹴散らされる。彼らのフリゲート艦も墜落した。敗北を悟ったジョッドは抵抗することなく彼らを逃がし、自分は一人部屋に残った。ウィム、ファーン、ウェンドル、ファラ、ニールは<オニックス・シンダー>の墜落現場の学校に向かい、KBとSM-33の無事を知り安堵する。ウィムは星空を新共和国軍が飛ぶのを見つめ、これからの未来に思いをはせる・・・


アト・アティンと親子離れ


この最終話でようやくアト・アティンの秘密が明らかとなった。ここは、監理官であるドロイドにすべてを管理された惑星であった。ジョッドはその事実に驚きを見せるが、この星で生まれ育ったファラたち大人はそのことに疑問を持たない。「大いなる事業では決まっていることだから」とドロイドが管理する意味を考えたことすらなさそうなファラの発言、皇帝の間を思い起こさせる監理官の間、そして人が長きにわたりこの部屋を訪れていないことがわかる積もった埃、監理官が惑星のインフラをすべて管理している状況・・・。すべてがこの星の大人の思考停止ぶりを表していて恐ろしげだ。

だが、ファラは最後に自分の決断としてバリアを破壊し、この生活に終止符を打つ。ここで、アト・アティンは二つの象徴になっているだろう。一つは前述したような思考停止の生活。ファラは外を見てきた子供に説得され初めて自分で大きな決断を下しこのディストピア社会からの脱出を果たす。

そしてもう一つは、子供たちを守る世界としてのアト・アティンだ。アト・アティンのバリアは危険な宇宙から子供たちを隔離し守っていた。ここにさえいれば、子供はずっと親の目の届く範囲にとどまり、親が思い描く安定した生活を送れる。だが、ファラは最後にバリアを破壊し子供たちが宇宙に飛び出ることを許す。つまり「子離れ」をする。いや、ファラ自身も子供として(祖父のような声の)監理官に見守られていたことを思えば、これは同時に「親離れ」でもある。ファラは親としても、そして誰かの子供としても大きな決断を下す。ファラは間違いなくこの物語の主人公の一人だっただろう。

また、もう一人の大人、ウィムの父ウェンドルも大人として立ち向かう。「息子よ、私はレベル7のシステムコーディネーターだぞ」はルークの「僕はジェダイだ」と対をなす名フレーズだ。誰もがルークのように特別な力を持つわけではないが、自分のスキルをもって英雄になれる。仕事人間の彼が息子の尊敬を獲得する瞬間だった。また、ウェンドルがジョッドに殴りかかるシーンも、仕事人間の彼の誇りが垣間見えた。彼はジョッドの「クレジットを作る仕事は変わらないなのだから俺に従え」と言う主張の直後に殴りかかった。動く目的が金だけの海賊やジョッドには理解できなかったのだろうが、ウェンドルは自分の仕事が「大いなる事業」に役立つからという誇りをもって働いていたのだ。それを海賊に従っても変わらないと語るジョッドの言葉は彼の人生を侮蔑しており、そこにウェンドルは拳で反撃する。

だが一方で、ウェンドルが信じている「大いなる事業」は虚構でもある。監理官ですらオーダー66のことまでしか知らない様子を見るに、この星はここ30年ほど銀河から完全に隔離されている。ウェンドルの年齢を鑑みるに、おそらく彼が働き始めてから今まで一度もその仕事は「大いなる事業」に役立ってはいない。ファラと同様にウェンドルも「管理社会からの脱出」と「親離れ」をし銀河という現実に向き合わなければならない。(余談だが、オーダー66のことを知っているからアト・アティンが共和国末期まで貨幣を共和国に提供していたというわけでもないのでは?もしそうなら、元最高議長であり多くのジェダイの遺産をかすめ取った皇帝が興味を示さないはずがないと思うのだが)

アト・アティンという惑星の解放を通じて、本作に大人たちの物語という要素を追加したのは非常に巧みだった。「父」と「母」であるウェンドルとファラは「子離れ」をし、同時に「祖父」である監理官からの「親離れ」もする。そして、安定と虚構を捨て現実に立ち向かわなければならない。その姿は、多くの大人の共感を呼ぶだろう。本作は、子供も大人も心動かされるものになっている。

ジョッドの過去と人間味


前回その本性をむき出しにしたジョッドは今回さらに奥に秘めたものを語りだした。彼が語る過去は確かに彼が悪役になりうるほど壮絶なものであった。ウィムごろの年齢の時に飢えた子供だったジョッドは、オーダー66から逃げていたある女性ジェダイに拾われる(カットシーンの写真を見るにこのジェダイはパダワンだ)。ジョッドは才能を見いだされ、彼女に師事するがその彼女は目の前で帝国に殺された。それ以来、ジョッドは光を信じられなくなった。

ジョッドの語る過去は、ケイナンに拾われたエズラと重なるものでもあり、ジョッド自身が根っからの悪人ではなく周りの環境が彼を捻じ曲げたのだと想起させる。実際に本性が明らかとなった後の今回でも、ジョッドはファーンを撃つことを躊躇したり、KBの「死」にショックを受けたり、犠牲を出したいわけではないと必死に語ったり、その奥底の善性が垣間見えた。そしてウェンドルを人質にウィムを脅すときのセリフ「殺すべきやつは殺す」も、まるで自分に言い聞かせるようかのものだった。前回、「シルヴォ船長」に戻った彼がわざわざマスクをかぶっていた部分を見て、私はカイロ・レンに近しい「何かを演じようとする姿勢」を感じたが、その感覚は今回さらに増すことになった。彼は時にジェダイを演じたり、教授を演じたりするのと同様に、悪人を演じようとしている。

また、ウィムに前回やけに厳しく当たっていた理由も今回明らかとなった。ジョッドはジェダイにあこがれるウィムを自分と重ねあわせていたようだ。同い年のころのマスターとの悲痛な思い出を語り、ウィムを諦めさせようとする。だが、この場面で「ほんのちょっとの光しかない」と光の存在に触れたことが印象的であった。彼にとってジェダイ・マスターとなった「彼女」は確実に光であったことを暗に認めている。ジョッドとウィムの違いは、その小さな光を信じ続けられたかの違いである。

この「彼女」が殺されるシーンは撮影されたが、最終版からはカットされたようだ。一部ではジョッドに深みを出すために必要なシーンだったとの声も上がっているが、私は子供とジョッドに距離感を作るためにあえてカットした制作陣の判断は正しかったと感じている。子供の視点からすれば、よくわからない過去で歪んだ悪人。大人の視点からすれば現実を知って挫折した人間。その視点の違いこそが、ウィムとジョッドの違いにつながったわけで、それを観客が体感するためにカットは必要だったであろう。ジュード・ロウの演技に着目すれば、ジョッドは回想シーンがなくとも十分に人間臭いことがわかる。

最終的にジョッドはまばゆいばかりの光に包まれて敗北する。ウィムに対して向けたジョッドの笑みは、ウィムの勝ちを称賛しているかのようだった。ジョッド・ナ・ナウッドという名を騙り(クリムゾン・ジャックやゴーロックス教授という風に何度も名前を拝借する描写があることからこのナウッドという苗字は自分のマスターのものではないだろうか)ジェダイとして彼に接した彼の最後のその笑顔は、皮肉にも弟子が自分を超えていくことを称賛する師の姿にも思えた

墜落するフリゲート艦を見つめるジョッドはちっぽけな光の勝利を知り、自らの考えを改めたのだろうか。今まで彼が味わった悲劇を思えば、このたった一回の正義の勝利で彼は変われないかもしれない。だが、別れ際ウィムはジョッドを敵として扱うのではなく、仲間として彼の名を呼んだ。正義を信じるウィムは、ジョッドの中にある善性を垣間見たはずだ。自分の善性が認められたことにジョッドが気付けるのであれば、彼は悪人を演じる必要はなくなるかもしれない。

子供たちは正義を信じる


前項でも述べたが、ウィムたちとジョッドの違いは「正義」を信じられるかどうかだった。ファーンはジョッドの裏切りや銀河の危険性を知ったうえでそれでも銀河の人々の中に善性を見た。ポート・ボーゴで声をかけてくれた女性を強く疑っていた彼女だが、この冒険を経て逆に人を信じる心を得た。もはや大人になってしい今の生活に満足し社会への不信感をため込んだ我々では戻れない純朴な考えに思えるが、時には子供たちが正しいことがある。

どうして子供たちは「本当の正義の味方」を最後まで信じられたのか。それはつまるところ「おとぎ話」のおかげなのだろう。本作の終盤にかけて、ウィムはおとぎ話のように物事が進まないことを知り現実を知った。そして今回、彼の口からは自ら作った虚構の「おとぎ話」が語られ、それが虚構であることを受け入れていた。だが、彼はもう一つ知っている。すべてが嘘ではなかったのだ。銀河にはおとぎ話のようなワクワクする出来事もあった。そして、現実も見方次第だと教えてくれたのもジョッドだ。また、今回のエンドロールにて、ウィムが経験した本作『スケルトン・クルー』の物語が、ジェダイの物語と同様の「おとぎ話」の一つになっている。ウィムが「おとぎ話」だと思っていたジェダイの話もすべてが虚構ではないと示される。正義を成した誰かは間違いなく存在し、そしてその正義を褒め称え語り継ぐ者たちも確実に存在する。だから、ウィムは「本当の正義の味方」を信じられる。

星空を見つめるウィムの希望に満ちた顔は、そんな子供たちの姿勢を再提示するものだった。監理官を失い、日常が失われ、危険な銀河に放り出されるのは大人であれば怖い出来事だ。だが、「本当の正義の味方」を実際に目たウィムは、自分におとぎ話のような冒険が訪れることを信じ、これからの生活に思いをはせる。その頭上に現れるのは、大人である我々が一度は見上げたC90 コルベット(EP4冒頭に登場する<タンティヴIV>の同型船)。自然と、ウィムとあの頃の自分を重ねてしまい子供の自由で希望溢れる心を我々も再び思い起こす。

豆知識

監理官


監理官のデザインは、『宇宙戦争』と『オズの魔法使い』という二つの映画に敬意を表したものである。また、その頭の形も、R2-D2 からインスピレーションを得ている。また、その赤い目は『2001年宇宙の旅』のHAL 9000も思い起こさせる。

Bウィング


実写作品で、B ウィングの本格的な活躍が描かれる作品となった。そのレーザー砲は初めて実写に登場したが、昔からあった設定であり、アニメ『反乱者たち』でも描かれていた。

新共和国の船


新共和国の船の中には、C90 コルベットもある。『EP4/新たなる希望』の冒頭に登場した<タンティヴ IV>もこのC90 コルベットであり、スター・ウォーズを象徴する船の一つだ。



画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点

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