- 第4話「アト・アティンは記憶にねえ(Can't Say I Remember No At Attin)」
- 監督:ダニエルズ(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)
- 脚本:ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード
- ユーザー評価★ 7.1/10 (IMDbより)
あらすじ
故郷アト・アティンへの帰還を目指す一行。前回手に入れた座標へ向かうが、そこは似ているが荒れ果てた別の惑星アト・アクランだった。偵察へ出たウィム、ファーン、KB、ニールの四人はトロイクの少年兵につかまってしまう。一方、<オニックス・シンダー>で待機を命じられていたジョッドはSM-33の記憶を取り戻そうと画策するが、トロイクの宿敵であるハッタンの軍勢につかまる。
トロイクのリーダー、ストリックス将軍は「落ちた聖域」にあるアト・アティンの座標を欲しがる四人を戦士として訓練に参加させる。他の三人は訓練を楽しんでいたが、臆病者のニールは乗り気ではなかった。将軍の娘で少年兵のヘイナは彼を気に入り、屋上の自慢の大砲を見せる。だが、戦うのは間違っていると諭すニール。最初は彼を弱い部族出身だと侮っていたヘイナも、ニールが子供たちに食べ物を分け与えている姿やその言葉に心動かされ、ニールを認めるようになる。だが、ストリックス将軍は4人をさっそく戦地へと送りむことにした。
偵察任務におびえるニール。だが、彼はそんな状況でもついてきてくれるヘイナを気遣い、戦いたくないと語っていた。そしてその前に表れたのは・・・ジョッドとSM-33だった。彼はハッタンに盗まれたトロイクのイオピーを取り返していた。そして、将軍との交渉で四人を解放する。娘のヘイナにも促され、将軍は勇気を証明した四人に「落ちた聖域」へ向かうことを認める。ニールの行動に心を打たれたヘイナは別れ際、自分がリーダーになった暁にはニールの言葉を思い出すことを宣言し、彼の頬にキスをした。
「落ちた聖域」の塔を上った一行。そこには「共和国の宝」の星の座標が載っていた。だが、アト・アティンの座標だけが消されている。SM-33は自分が消したと話し始め、手がかりを失ったファーンは一人泣き出す。ウィムの言葉も彼女の心を慰めることはできなかったが、ふとファーンは妙案を思いついた。ドロイドたるSM-33の命令を上書きしようと試みる。だが、それは逆効果でSM-33はアト・アティンの情報を探るものを八つ裂きにしろとのかつての船長の命令を思い出し暴れ始める。それを止めたのはニールだった。彼がSM-33の気を引き、ジョッドがその電源を切ることで事態は解決する。一行を救ったニールは安心するあまり気絶してしまう・・・
ニールの優しさが社会に必要
今回はニールについて深堀りした回であった。思えば、第一話ではウィム、第二話ではファーン、第三話ではKBが主人公のような立ち位置に立っており、折り返しの第四話にしてキャラの紹介が終わり物語の下地は完成したと言える。次回からは四人の関係性、そしてジョッドについて描かれていき、物語は加速するだろう。
今回のニールのキャラクター性は、少年兵のヘイナとの関係性から描き出された。ヘイナは子供であることを許されない、弱いものであることが許されない惑星アト・アクランに暮らしていた。一方、ニールは平和な惑星アト・アティンにて弱いことを強みとして優しさをはぐくんできた。見事なのは、ニールが説教臭い言葉を吐かないことである。彼は「戦いは間違っている、僕は人を傷つけたくない」と語りながらも、それを押し付けようとはしないという優しさも持っている。
アト・アクランとアト・アティンは似ているが全く違う環境であり、ヘイナの生き方を否定しない言葉は逆にヘイナの心を動かすことになる。この環境の違いという設定は巧みであり、ヘイナがニールにそこまで惹かれる理由がわからないようでいて、ヘイナには故郷とは違うどこかへあこがれるウィムと同じ感情があることが想起され、すっと腑に落ちてくるものがある(ウィムがヘイナへ憧れの視線を向け続けているのもそれに一役買う)。
ある意味、ニールの優しさとは、弱さを持っている自分が平和な世界で生きるためのスキルである。生きるためのスキルである点は、ヘイナが争いの絶えない社会で生きるために身に着けた力強さと同じである。この二人の考えに優劣があるわけではない。環境の違いがあるだけだ。だが、どちらの社会が理想的かと考れば、ニールの優しさこそが理想的な社会に必要なのは明白であろう。彼のような人間が増えれば、(おそらく)戦士ではないからこそ配給がもらえず飢えるような子供はいなくなる。ヘイナは、社会を率いるリーダーとしてニールの持つ優しさの重要性に気づく。
ニールが影響を与えられたのはヘイナ一人かもしれない。彼が劇的な何かを今もたらされたわけではない。だが弱い存在であっても優しさを貫き通すだけの強さがあれば、希望の種をまくことができる。誰しもがニールになれる。子供への教育番組という側面がある本作でそれを示したのは大きな成果だ。ニールの強みをヘイナとの対比、すなわちアト・アティンとアト・アクランの対比、一般人と将来のリーダーとの対比を使いつつ描いた手法は見事であった。
故郷のもう一つの可能性
アト・アクランという星が子供たちの故郷アト・アティンの似て非なる星として登場したのは非常に興味深かった。前項でも述べたように、ニールとヘイナの対比に利用されており、舞台装置として見事に機能した。それに加え、様々な妄想が広がる設定となっている。今後のこのドラマは、アト・アクランのような故郷アト・アティンに似た異世界「アト・ア~」をめぐる旅になるのだろうか。その旅路で、子供たちは自分たちの星の異常性、そしてその希少性に気づくことになるのかもしれない。
既にお気づきだろうが、このアト・アクランは、あまりにもアト・アティンに似すぎている。同じ建物が同じように配置されているのは意図がないと起こりえない。それが意味するところを考えていくと、このアトを冠する惑星はすべて計画都市、いや実験都市なのではないのか。「アクラン」がアイルランド語で対立を表す言葉であることを考慮するとこの星は対立を起こす実験惑星、アト・アティンは管理社会を作った実験惑星・・・などと妄想が広がる。これらの星は、景色こそアメリカに似ているものの、開拓者精神で領域を拡大していった自由の国アメリカとは全く違う。
また、このアト・アクランは宝の星の一つであるはずだが、その宝はどこへ行ったのだろうか。他の惑星と毛皮しか交換してないそうなので、もうすでに価値のあるものは無いように思える。海賊に奪われたのだろうか?なぜ宝は失われたのか、を考えていくと宝の正体も見えてくるかもしれない。
そしてほかにも気になるのがジョッドとこの惑星の関係だ。ジェダイの可能性があるジョッドが少年兵になってしまった子供たちを救出するという構図には意図を感じざるを得なかった。スター・ウォーズで少年兵と言えば、ジェダイのパダワンである。その少年兵ぶりは近年のドラマ『アソーカ』でも強調された。ジェダイの文脈をわざわざジョッドの目の前に持ってきているように思えた。そして、「無欲」だと将軍が指摘する言葉も、ジェダイ相手のセリフのようにも思えてくる。
アト・アクランの描写は、今後再びアト・アティンに戻った時にさらに意味がある描写となるだろう。寄り道に見える今回も最終回の後に見返すと新たな発見があるに違いない。
失われたSM-33の庇護
ことあるごとに「アト・アティンは記憶にねぇ」と語っていたSM-33だが、今回その本性を現す。彼は船長の忠実なしもべとして、驚異的な暴力をふるう存在だった。同時に彼はアト・アティンを覚えており帰還への大きなカギでもある。彼が今後どうなるのかも気になるが、彼が語った前の船長についてもかなり気になる。その船長は、SM-33とアト・アティンに到着したはずだが、どうなったのだろうか。外部との交流を遮断していたアト・アティンが船長の到着に気づかないなどありえないのではないか?実際に、今回アト・アクランへと着陸しようとした<オニックス・シンダー>は自動着陸システムに捕捉されていた。船長はもしかするとその後、何度も名前だけ登場する監理官になったり・・・?
もう一つSM-33関連の描写で気になるところがある。それはファーンのSM-33への反応だ。彼女はマスターである自分の命令でドロイドの記憶を上書きできると信じていたが、それはスター・ウォーズ世界の常識ではない。R2-D2は新しいマスターをあてがわれても決してレイアを裏切らないし、新しいマスターを認めたC-3POでさえ「船に乗っていた姫のことはよく知らない」と元マスターのことをかばおうとする。彼らは(不完全ではあるが)人格を持た存在だと描かれてきた。明らかにファーンの考え方は、スター・ウォーズという文脈では浮いている。これもアト・アティンの特殊性なのか?
SM-33が信頼できなくな機能停止させられたことで、彼らの保護者はSM-33からジョッドへと変わる。トロイクやSM-33の暴走から彼らを救ったことでジョッドはある程度の信頼を獲得したが、それでもまだ完全に信頼はできない。子供同士の絆がさらに大事になってくるだろう。だが、自分が仲間を危険にさらしたことで気丈なふるまいにも限界が来てしまったファーン、いまだに物語の登場人物気分で一人浮かれ続けるウィム、少し抜けているKBだけではチームになりえないだろう。今回もKBはファーンを感情的に支えようとはせず、ウィムはファーンに頼りきりな甘える姿勢を見せ、彼女を逆に怒らせてしまった。そんな彼らに必要なのは、共同体をうまく回すことに長けた心優しいニールなのかもしれない。今回のニールのSM-33に対する勇気ある行動は、そんなことを示唆しているようにも思えた。
豆知識
アト・アクランの名前
今回登場した惑星の名前はアト・アクラン。その名前はアイルランド語で敵対を意味する「Achrann」という単語に似ており、戦争によって荒廃した惑星を象徴した名前のかもしれない。
ホリデー・スペシャル
ジョッドは、子供たちの持ち物の中から、第一話でニールの兄弟が見ていたサーカスの映像を発見する。これは、スター・ウォーズ最大の黒歴史とされるTV映画『ホリデー・スペシャル』からの引用だ。
イオピー
『ファントム・メナス』などに登場した惑星タトゥイーンのクリーチャー、イオピーが再登場。ただしこのイオピーには角が生えているため、我々が知っているイオピーの亜種だ。
帝国軍の装備
ハッタンの兵士とトロイクの兵士は、映画『ハン・ソロ』でミンバンの帝国軍兵士マッド・トルーパーがかぶっていたものと同様のヘルメットを着用している。また、『ファントム・メナス』のAATのコンセプトアートを流用し『マンダロリアン』に登場したトレクスラー906装甲マローダーも改造して使っているようだ。
【ドラマ『スケルトン・クルー』のレビュー記事】
筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei)
画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点