- 第5話「お前たちは海賊を分かっていない(You Have a Lot to Learn About Pirates)」
- 監督:ジェイク・シュライアー
- 脚本:ミュン・ジョー・ウェスナー
- ユーザー評価★ 8.2/10 (IMDbより)
あらすじ
惑星アト・アティンでは、ニールの母ヌーマに促されたウィムの父ウェンドルがバリアのコードを盗み出そうとしていた。その計画はファーンの母ファラ次官に露呈するが、ウェンドルは監理官が自分たちの子供を助けてくれないと説得し、彼女の協力を取り付ける。
一方、前回暴走したSM-33から情報を聞き出すことにしたジョッドと子供たち。KBが起動すると、彼はタック・レノッド船長という伝説の海賊がアト・アティンを襲おうとしていたことを明かす。一行は惑星の座標が記録されているレノッドのアジト、スカル・リッジ山へと向かうことにする。そんな中、ウィムは恐ろしく予想のつかない銀河に心が折れそうになるが、ジョッドは現実を決めるのは自分自身だと彼を励まし、すべての愛着を忘れろと諭す。
スカル・リッジ山に到着した一行。だが、そこは今やラニューパと呼ばれ、高級スパとして営業していた。ジョッドは賄賂を活用することで巧みに潜入を試みるが、ダッシュ・ゼンティンと名乗っていたころの仇敵の賞金稼ぎポキットと再会する。彼女が海賊に通報することを恐れたジョッドは余裕を失い、子供たちをしかりつけ、急いでレノッドの宝物庫を目指す。そしてその恐れは現実となっていた。ポキットは、ジョッドを追うブルータス船長へ連絡を取る。
宝物庫を手分けして探すことになったが、ジョッドとニール、KBは不法滞在が露呈し警備兵へ追われる。ファーン、ウィム、SM-33も巨大なエイリアンに職員ではないことを見透かされてしまった。だが、KBの機転で警備兵を倒すことに成功し、ファーンとウィムは物語を聞かせることで巨大なエイリアンであるクタロプスを味方につけることに成功した。海賊に追われる中、一行は罠をかいくぐりつつ宝物庫の前までたどり着き、大いなる犠牲として宝を酸に溶かすことで宝物庫へと侵入する。そして、とうとうレノッドのログを見つけた。
アト・アティンの座標、そしてこの星が旧共和国最後の造幣局であることを知るとジョッドの態度は一変した。酸の罠を使い追っ手を全滅させ、そしてファーンに船長の座をめぐる決闘を申し込む。大人でしかもフォースを操るジョッドにファーンが勝てるはずはなく、ナイフを首元に突き付けられ降伏を促される。ウィムはライトセーバーを手に彼女を救い出そうと試みるが、ライトセーバーの刃の向きを間違え、その試みもうまくいかなかった。降伏したファーンに代わりジョッドが船長となる。彼はSM-33に子供たちの拘束を命じるが、ウィムは罠を起動させ、穴の底へと落ちていった。残されたライトセーバーを見たジョッドはそれをフォースで手繰り寄せ、起動する・・・
疑問の残るアト・アティンの正体
とうとうアト・アティンの宝の正体が明かされた。アト・アティンは最後に残った旧共和国の造幣局だったのだ。造幣局といえば、お金を作る場所!アト・アティンさえ手に入れば無限にお金を得られるのだ・・・!と子供は解釈したようだが、そんなわけはない。(少なくとも現代においては)貨幣の価値とは信用により成り立っている。海賊が造幣局を手に入れ貨幣を発行したところで、無限のお金が手に入るわけではない。じゃあ貨幣に使われている金属を海賊は狙っていたのか?いや、500円玉を作るために500円かかるはずもなく、材料を盗んだところで得られる利益はごくわずかのはずだ。(もっとも旧共和国が金本位制の可能性は否定できない。劇中では材質の金属を確かめるために歯で貨幣を噛むシーンがあった)
さらに、アト・アティンの情景を思い出しても、あの星が造幣局であるという話にはどうもピンとこない。貨幣を作るのが星の役目であるはずなら、複雑な数学を用いた経済学的な知識よりも鉱山や貨幣製造の機械に対する知識や仕事が必要になってくるはずだ。だが、誰もそんな仕事についているそぶりはなかった。そしてそもそも、貨幣を供給する相手(共和国)がなくなった現在、アト・アティンは何をしているのか?
少なくともアト・アティンの正体がただの造幣局ではないのは確実だろう。今回これ見よがしに銀行グループが登場したのも絡んでくる可能性が大いにある。アト・アティンは銀河の経済においてもっと大きな役割を持っているのではないか。もしかすると、レノッドの目的もただ貨幣を手に入れることではなく、造幣局を奪うことによって共和国への信頼を失墜させ、共和国を崩壊させることだったのかも?
あともう一つ気になったのは、レノッド船長がわざわざ座標を残していたことだ。アト・アクランで座標を見た船員を全員殺したはずなのに、なんで座標を残すというリスクを取ったのか・・・。いやこれは伏線ではなくただの都合の良い設定かもしれないが。
この星の正体は、ジョッドの正体にも絡んできそうな予感がしている。配信前はここまで中心的な謎になるとは想像もつかなかったが、この謎により物語にさらに引き込まれている。
ジョッドはジェダイか
今回、ジョッドはフォースを明確に操り、さらにクワイ=ガンのセリフを引用してウィムを励ます。彼がやはりジェダイなのではないかという期待が高まる中、最終的に彼は子供たちを裏切ることになる。元ジェダイである可能性は否定できないが、やはり彼は一筋縄ではないかない性格をしている。
ウィムへの励ましも心優しいものであるようで、どこかねじ曲がった思想が見て取れる。彼はクワイ=ガンがアナキンへ向けたものと同じセリフ「何に集中力を向けるかで現実が決まる(Your focus determines your reality.)」をウィムへと語る。だが、その使い方は全く違う。クワイ=ガンはジェダイとして訓練を許されなかった現実に立ち向かうためにアナキンに心の持ちようを説いていた。一方で、想像力で好きな人生を生きられると語るジョッドは現実から目をそらし逃避することを勧めているようだ。執着を捨てろというのもジェダイの教えではあるが、自分が楽になるためにすべてを忘却しようとするのは愛を重視するジェダイの道ではない。ジョッドは様々な偽名を使い分け、自分にとっての現実から逃げ回ろうとしているように見える。やはり彼はオーダー66で家を失った元ジェダイであるという説がしっくりくる。
極めつけにジョッドはジェダイらしからぬ子供への裏切りを披露する。宝の正体と在処が分かった瞬間、ジョッドは残忍に追っ手を殺すと、船長へ立候補し特別なフォースの力と大人の腕力でファーンをねじ伏せる。子供たちは恐怖する。そこには正義は全く見えない。・・・が、この描写はやや引っかかった。その直前レノッド船長のホログラムが「この仕事には大勢の手下が必要」と語る。それなのにジョッドは周りを裏切り一人になることを選択しており、ジョッドがあの瞬間にどんな計画を思い描いたのかがよく見えない。彼は宝を独り占めするためではなく、子供たちの安全を案じて一芝居打った可能性も否定できなそうだ。
そんな彼も今回ライトセーバーを手に入れた。もし元ジェダイだとするのならば、彼は再びセーバーを持つことになる。起動した瞬間は描かれなかったが、次に彼がセーバーを持って登場する瞬間がどのようなものになるのだろうか。
おとぎ話と現実について知るウィム
今回はウィムを中心におとぎ話と現実というテーマが描かれていた。おとぎ話が大好きでジェダイにあこがれていたウィムだったが、銀河の現実に恐れおののきおとぎ話のような冒険がしたかったと一人泣く。そしてジョッドは彼に自分の想像力で現実を変えられると告げる。ウィムが持っていたおとぎ話と現実の二項対立の観念をジョッドは否定する。
そしてスパにて、ウィムはクタロプスに自分の冒険譚を語る。クタロプスにとって人づてに聞くその話はもはやおとぎ話のような物語に近いものだ。クタロプスはその物語を大いに楽しみ、最後にこう語る。「次は結末を聞かせてくれ」。その言葉でウィムは自分が「おとぎ話」の中にいることを意識させられる。
宝物庫に入ると彼はライトセーバーを見つける。おとぎ話の物品が今現実に目の前にある。ファーンがジョッドに襲われたとき、彼はそのライトセーバーを手に取る。ジョッドはこれは冒険譚じゃないと彼を止めようとするが、ウィムは物語の主人公のように勇気をもってセーバーを手に取る・・・。その結果はうまくはいかなかったものの、勇気を出して一歩踏み出したことには大きな意味がある。
かつてルーカスはスター・ウォーズを見た子供たちに「自分の水分農場を出てほしい」と語っていた。おとぎ話とはそのまま現実にあてはめられるようなものではない。だが、物語は勇気を与え、一歩踏み出す手伝いができる。だからこそ、おとぎ話や物語は素晴らしいのだ。そのようなことを描き出してくれた今回を見て、さらに一つの"おとぎ話"である『スケルトン・クルー』の今後が楽しみになった。
豆知識
ジョッドのセリフ
ジョッドは今回ウィムに「何に集中力を向けるかで現実が決まる(Your focus determines your reality.)」と語っていたが、『EP1/ファントム・メナス』ではまったく同じセリフをクワイ=ガンがアナキンに語っていた。ジョッドがジェダイであることを強くほのめかすセリフだ。
レノッド船長
SM-33が仕えていた船長の名前は、レノッド(Rennod)。英語のつづりを逆から読むと ドナー(Donner)となり、この船長の名前が『グーニーズ』の監督リチャード・ドナーに由来することがうかがえる。
ハット
スパの泥の温泉にはハット種族が浸かっている。そのお世話をし飲み込まれてしまったのは『最後のジェダイ』にも登場したトログロフ種族。また、このハットは顎に刺青をしており、『ボバ・フェット』に登場した双子の片割れの可能性もある。
ムウン
また、泥の温泉にはムウン種族も入っている。ムウンは銀行グループの中核種族として有名であり、語られていたように銀行グループのサミットのためにこの地を訪れたのだろう。また、ジョッドはスキピオのゴーロックス教授を騙っていたが、スキピオは銀行グループの根拠地である。ちなみに、『アコライト』に登場したダース・プレイガスもムウンであり、『アコライト』のためのモデルを本作に流用したと思われる。
Sleemo
ポキットはジョッドを「Sleemo」だと語る。これはハット語の罵倒であり、『EP1/ファントム・メナス』ではセブルバが、『EP2/クローンの攻撃』ではザム・ウェッセルが使っていた。
ジョッドが見ていた文字
レノッドのシンボルを探すためにジョッドが見ていた文字は、古代に廃れたシス語の文字ウル=キッタートが刻まれていた。
【ドラマ『スケルトン・クルー』のレビュー記事】
筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei)
画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点