【総評】ドラマ『アソーカ』:現代の神話 スター・ウォーズの新たな始まりを描く「序章」

2023/10/09

アソーカ レビュー

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概ね良い評判だったドラマ『アソーカ』だが、一部のファンからは、展開の遅さや新たな設定に対する批判が漏れ聞こえてくる。しかし、私はそれらの意見が視野狭窄であるように感じる。本作は、「現代の神話」たるスター・ウォーズの新たな始まりを描く「序章」ではなかったか。ジェダイの概念の変化「別の銀河」という設定の導入、そして制作陣のスタンスは、今までのスター・ウォーズを総括して、新たな神話を創ろうという意気込みに満ちていた。2026年~2027年にかけて公開される三本の「新作スター・ウォーズ映画」の序章として、本作は期待を高めるに足る素晴らしい作品であった。

ジェダイを破壊・修正するアナキンの後継者:サビーヌ


本作の主人公であるアソーカ・タノは、サビーヌ・レンを「パダワン」にしていた。サビーヌは才能がないとヒュイヤンに指摘されていたにも関わらず、「フォースの力」に覚醒する。特別な力を持たない一般人でもジェダイになれるという物語は、スター・ウォーズを原点回帰のために「修正」するものであった

前回の記事でも指摘したが、元々スター・ウォーズとは、ただの田舎の農夫がジェダイの英雄になるものであった。ルーカスも誰もがフォースを習得できるという考えを持っており、ルークは特別な力を生まれ持った「生まれながらのエリート」だと示されたわけではなかった。しかし、『EP1/ファントム・メナス』で「ミディ=クロリアン値」という数字が登場したことで、ジェダイは「生まれながらのエリート」という印象がついたそれを「修正」したのが、本作『アソーカ』だ。「誰でも信念を持てばジェダイになれる」と改めて提示することで、ジェダイに憧れる者に再び勇気を与え、誰もが世界を変えられる可能性を再度示した。

その過程で、「エリート」だったアソーカが、「一般人」だったサビーヌに力と知恵を伝授するという流れが強調されている。第二話では「一般人」が善悪ではなく自らの強欲で動くために、台頭する悪があることが示された。アソーカは「エリート」のジェダイが持っていた力・知恵を「一般人」へと授ける、つまり啓蒙することで、この強欲に対抗しようとしていることがほのめかされている。自分が力を手に入れて問題を解決しようとする、すなわち「エリート」だけで社会を変革しようとするベイラン・スコール(や旧ジェダイ・オーダー)とは対照的だ。アソーカの啓蒙は、一般人とエリートの溝が深まっている現実の「ポピュリズム」への回答にもなりうる。『スカイウォーカーの夜明け』のエクセゴルの戦いでは、一般人が立ち上がって悪を打倒する様子が描かれており、アソーカの啓蒙はやがて実を結ぶ。


また、EP3のアナキンとその孫弟子であるサビーヌが同じような道を歩んでいた点も注目に値する。アナキンは、家族と離れなければならないという「ジェダイの論理」に従った結果、母シミを失った。そして、パドメという「家族」を「死ぬ運命」から助けるために「悪」と手を組んだ。サビーヌも父同然だったケイナンが自己犠牲という「ジェダイの論理」に従った結果、彼を失った。そして、エズラという「家族」を「(こちらの銀河にとって)死んだ状態」から助けるために「悪」と手を組んだ。だが、二人は正反対の結末をたどる。アナキンはパドメを救えなかったが、サビーヌはエズラを救った。

EP3のアナキンは、家族を失うことを恐れていた。すなわち、パドメと共に居る自分を望み、彼女に執着していた。サビーヌにも似たような感情はあったが、彼女は執着はしない。最終回ではエズラと共に居ることに拘泥せず、アソーカを助けに向かう。サビーヌはEP3のアナキンとは違った無私の愛を持っていたからこそ、家族の「命」を救えた。この命を救う方法は、『アソーカ』最終回以前にも何度も描かれてきた『EP6/ジェダイの帰還』ではアナキンが自らの命を顧みずにルークを救い、『スカイウォーカーの夜明け』ではベンが自分の命と引き換えにレイを救い、そして『アソーカ』第五話では、既に一緒に居ることは出来ない死者であるアナキンがアソーカの命を救った。無償の思いやりは、スター・ウォーズにとって、常に善であった。サビーヌはこの思いやりを行使し、EP3のアナキンができなかったことを成し遂げる。

旧ジェダイ・オーダーは銀河を守るという重責を背負っていたため、時にこの無私の愛を軽視することがあった。実際に『EP6/ジェダイの帰還』では、ヨーダやオビ=ワンは、ルークの無私の愛を信じ切れずに、ヴェイダーを倒すように促し続ける。その流れを受け継ぐアソーカも、当初はスローンの帰還を阻止するという大義のために、エズラを見捨てようとしていた。しかし、アソーカは、アナキンの「弟子に生きて欲しい」という思いを汲み取り、自分も同様の考えを抱くようになっていった。第七話では、ベイランが「大義」のために弟子を捨てたのとは対照的に、アソーカはスローンの帰還の阻止という「大義」を後回しにして、弟子の下に向かう。そして、弟子たちと再会したことを心の底から喜ぶ。「愛」よりも「大義」を優先することは正しいとは限らないと示され、EP3のアナキンの感情が肯定された。


アナキンは、第五話で「遺産を受け継いできたジェダイも生き延びる過程で変化してきた」とアソーカに教えた。その言葉通り、本作で「ジェダイ」は大きく変化した。「生まれながらのエリート」でなくとも信念を持てばフォースの力を操る「ジェダイ」になれるし、「大義」だけでなく「無私の愛」をも肯定できる存在だと改めて示された。アソーカは弟子に「ジェダイではなく自分自身であってほしい」と願っており、サビーヌはさらに進化することであろう・・・。

2026年~2027年に公開予定の次の映画三作では、「ジェダイ」がテーマとなると発表されている。「チノイ監督の新作映画」では、レイ率いるニュー・ジェダイ・オーダー、「フィローニ監督の新作映画」では、マンドー・バースのフィナーレ、「マンゴールド監督の新作映画」では、ジェダイの始まりが描かれる。本作で示された新たなジェダイ像は、これらに大きな影響を与えるだろう。

過去と現在と未来を繋ぐ「別の銀河」


本作での最大の衝撃は、「別の銀河」が登場したことだ。レジェンズ(旧設定群)においても、別の銀河からユージャン・ヴォングという種族が襲来するというイベントが描かれたことがあったが、その別の銀河に足を踏み入れることはなかった。しかし、本作において、今までの「スター・ウォーズの銀河系」と「別の銀河」が繋がり、スター・ウォーズの舞台が大きく広がった

全く新しい世界を描いてくれるのでは、と当初は妄想していたが、その期待は裏切られることになった。惑星ペリディアの「ヤドカリ」や「落ち武者」は、残念ながら既存のスター・ウォーズらしさから抜け出したものではなかった。しかし、この「別の銀河」がはるか昔に「スター・ウォーズの銀河系」の文化に大きな影響をもたらしたという設定は、その落胆を補って余りあるほどの魅力だった。

ダソミアの魔女ことナイト・シスターはこの「別の銀河」の出身で、遥か昔に入植を行っていた。ペリディアの要塞の文字は、シスの文字だ。そして、スター・ウォーズの神性存在であるザ・ワンズの石像もペリディアにあった。以上のことから考えると、ジェダイやシス、共和国といったスター・ウォーズの主要な文化も、すべてが「別の銀河」に由来するのかもしれない。EP4の25000年前を舞台にジェダイの始まりを描く「マンゴールド監督の新作映画」では、「別の銀河」からの入植が描かれるであろう。この「別の銀河」から「スター・ウォーズ銀河」への入植を「ヨーロッパ」から「アメリカ」への入植に重ねて、被侵略者の目線を描けば、アメリカ建国神話たるスター・ウォーズがさらに面白くなりそうだが、どうなるだろうか。


また、本作において「別の銀河」のペリディアは「冥界」としての役割も負っている。スローンやエズラは「死んだ」状態にあり、「墓場」でもあるこの地に幽閉される。サビーヌは、死者を救うため、神話の類型である「冥界下り」を試みる。グレート・マザーたちが、死者を操ってゾンビを作る描写からも、ここが「冥界」であることが印象付けられる。

新共和国は、過ぎ去った脅威、「冥界」からの死者から攻撃を受ける。現実とは到底信じがたい「おとぎ話」の脅威だ。『最後のジェダイ』では、この「おとぎ話」が必ずしも真実とは限らないと示されたが、今回はそれが具現化し真実となる。ルークは「おとぎ話」の英雄像を求められる重圧から逃れて隠遁したが、この具現化は彼に英雄を求める人々の思いを強化するものになるかもしれない。また、「冥界からの死者の復活」というおとぎ話によくあるテーマは、『スカイウォーカーの夜明け』のパルパティーンのリフレインでもある。シークエル三部作で扱われた「おとぎ話」というテーマが、このマンダロリアン・バースでもまた描かれようとしている


「別の銀河」は「現在」であるマンダロリアン・バースの大きな脅威になるだろうが、それに加えて、この登場によりスター・ウォーズの過去と未来にもさらに思いをはせることが可能になった。オリジナル三部作とシークエル三部作だけだなく、ジェダイをテーマとする次の新作スターウォーズ映画三作を結び付ける要素であると言えよう。

現実の文化を吸収し、文化の起点となる試み


本作『アソーカ』が属するマンダロリアン・バースはシークエル三部作と「スター・ウォーズ」への向きあい方が大きく異なっている。シークエル三部作は、「ルーカスのスター・ウォーズ」への回答に終始していた。一方『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』の続編でもあるマンダロリアン・バースは、「レジェンズ(旧設定群)やアニメを含めたすべてのスター・ウォーズ」を土台に構成されている。その代表例が、アニメの登場人物だったアソーカやサビーヌであり、レジェンズの登場人物だったスローン大提督やナイトシスターだ。

旧設定群(レジェンズ)が採用されていたときには、スター・ウォーズの作品は大別して二つのラインがあった。一つは「ルーカスのスター・ウォーズ」であり、もう一つはそこから派生し、正史だと公認された「二次創作のスター・ウォーズ」だ。後者は、スター・ウォーズという魅力ある世界を土台に、作家たちが互いの設定を活かすシェアード・ユニバースとして成熟していた。ルーカスは『クローン・ウォーズ』にて、ダソミアの魔女の設定を拾い上げるなどし、この二つの融合を目指していた。ディズニーによる買収を経て、「二次創作のスター・ウォーズ」が正史から外された時も、この「二次創作のスターウォーズ」は新たな「正史のスター・ウォーズ」の土台になると発表されていた。

だが、「正史のスター・ウォーズ」の本流であるシークエル三部作はこの「二次創作のスターウォーズ」の大部分を無視した。ルーカスが去った後のスター・ウォーズ自体が二次創作&シェアード・ユニバースになるにも関わらず、シェアード・ユニバースとして完成されていた「二次創作のスター・ウォーズ」の土台を捨てた。

しかし、前述したようにマンダロリアン・バースは、これらの「二次創作のスター・ウォーズ」から多くの要素を拾い上げている。「ルーカスのスター・ウォーズ」から派生し、もはや新たな文化となっていたすべてのスター・ウォーズ作品を「なかったことにしない」ように心がけている。これは、本シリーズの総指揮であるフィローニが「二次創作のスターウォーズ」を楽しんできた一ファンでもあり、『反乱者たち』では似たような立ち位置にあったことに起因するであろう。繰り返しになるが、マンダロリアン・バースは、ルーカスの創作物としての側面ではなく、文化として成熟していたスター・ウォーズをも吸収しようと試みている


また、本作には様々な作品からの「引用」が散見された。ベイラン・スコールとシン・ハティという名前は北欧神話から、モーガン・エルズベスとマロックの名前はアーサー王伝説から、第二話のタイトルは『マクベス』から、グレートマザーの名前はギリシャ神話から、「白のアソーカ」は『指輪物語』から、第八話のタイトルは『ナルニア国物語』から・・・と挙げ始めると、キリがない。今までのフィローニ監督作品にないほど各作品の要素が散りばめられていた。彼は、意図をもってこれを行っていたのだ。その意図とは、「スター・ウォーズを再び最先端の作品」にすることではないか。

当初ルーカス監督は、スター・ウォーズを米国文化への「カウンター・カルチャー」として制作した。制作体制からも、そのオリエンタリズムあふれる内容からもそれはうかがえる。だが、大ヒットし、多くの人に影響を与えたスター・ウォーズは、やがてカルチャーの主流となり、そして古典となっていった。『フォースの覚醒』では古典的な部分がもてはやされ、「最先端」の作品とは呼べなくなっていった。

主流となり、「カウンター」にもはや成りえないこの古典を再び「最先端」にするにはどうしたら良いのか。唯一の道は、全ての米国文化の「集大成」となることだ。米国文化の根底にある、神話、そしておとぎ話の名作すべてを吸収・合併し、その頂点へと上り詰める。そうすれば、オリジナル三部作が新たな文化の始まりとなったように、再びスター・ウォーズは誰しもが必ず通る文化の始点となりうるだろう。この野望は、かつて西部劇のカウンターだったスター・ウォーズが、『マンダロリアン』にて再び西部劇を吸収・合併した時から始まっていたのかもしれない。


ヒュイヤンが「遠い昔、はるかかなたの銀河系」の物語を語り出したのは、ただのファンサービスではない。スター・ウォーズ銀河にも、「はるかかなたの銀河系のおとぎ話」が影響を与えたことを示し、我々の地球にもスター・ウォーズという「はるかかなたの銀河系のおとぎ話」が影響を与える可能性を示唆している。原点から派生し文化として成熟した今までのすべてのスター・ウォーズ作品や、地球の文化に影響を及ぼし続けてきた現実のおとぎ話・・・。これら全てをまとめ上げ吸収し、新たな文化の起点となることで、『アソーカ』とマンダロリアン・バースは、現代のおとぎ話としてのスター・ウォーズの地位を確立させようとしている。


筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei
画像は、『アソーカ』(2023年、ルーカスフィルム)より。

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