【レビュー・豆知識】ドラマ『アコライト』第3話「運命」:EP1オマージュから捉え直すジェダイの正義【ネタバレ・あらすじ】

2024/06/13

アコライト レビュー

t f B! P L

  • 第3話「運命(Destiny)」
  • 監督:コゴナダ
  • 脚本:ジャスミン・フルールノア、アイリーン・シム

あらすじ

惑星ブレンドク。辺境のこの地には、マザー・アニセヤが率いる魔女の一団が隠れ住んでいた。逃げ延びてきた魔女たちだが、彼女たちには二つの希望があった。双子の少女、オーシャメイだ。「二人で一つ」の双子だが、二人はそれぞれ思い描く未来が違った。オーシャは銀河へ旅立つことを夢見ている。メイは魔女の母たちの期待に応えたい。

二人は、重要な儀式「アセンション」を迎えようとしていた。マザー・コリルは自由奔放なオーシャに厳しく接するが、母でリーダーのアニセヤは人を試そうとする子供らしい行動だとオーシャを庇う。そして、双子を注視する怪しい影が・・・

アセンションの夜。メイは母の問いかけに即座にうなずき魔女のリーダーの跡取りになることを誓う。一方、オーシャは逡巡する。そこに、あの集団が現れる。マスター・インダーラ率いるジェダイの一団(ソルケルナッカ、パダワンのトービン)は、子供にジェダイのテストさせるように迫る。そして、ソルの優しい問いかけにオーシャはジェダイになりたいと語る。

二人を産んだマザー・コリルは、二人にテストを受けさせることを猛反対する。一方、二人を「作り出した」アニセヤはオーシャの意向を優先させようとする。長老たちの話し合いは、テストを受けさせるものの嘘をつかせて才能をジェダイに見抜かれないようにするということでまとまった。

双子は噓をつくと、母アニセヤと約束した。メイは言いつけを守り、嘘をついた。だが、オーシャはソルに促され、勇気を出してジェダイになりたいと告げる。彼女は母と妹との約束を破ったのだ。アニセヤはオーシャの意思を尊重したが、メイは激怒した。オーシャが書き留めてきたノートを燃やす。火は燃え広がり、爆発が起こり、魔女の集団は全員が死んだ。メイも足元が崩れ、火の中へと落ちていった。ソルに拾われたオーシャはコルサントへと向かう。一方、ブレンドクにはメイが一人で取り残された・・・

EP1のオマージュから描かれるジェダイの正義


『EP1/ファントム・メナス』の25周年に公開された本作は、まさに「エピソード0」たる内容であり、同作への考えを深めるきっかけとなる作品であった。今回のオーシャのアークはEP1のアナキンと重なる描写を多用しつつ、随所随所にあえて重ならない描写をいれることで、EP1への理解を深めてくれた。

今回のオーシャはちょうどアナキンと同い年ぐらいの子供で、同じくジェダイに憧れている。縛れられた田舎から飛び出て広い銀河を冒険したいと夢見ている。そこに、ジェダイ・マスターが現れることで、二人は夢をかなえるきっかけをつかむ。大方この流れは似通っているが、特筆すべきは縛るものが違うことだろう。アナキンは奴隷という社会悪に縛られていた。一方、オーシャは魔女の集団という家族によって縛られている

アナキンもタトゥイーンに母シミを残し、後ろ髪を引かれる思いではあった。だが、オーシャの家族はそれ以上にオーシャを縛り付けようとする。姉のメイは、「二人は一つ」で、自分たちは魔女になるのだと彼女に言い聞かせる。オーシャが一人で行動しようとすることを認めず、自分と同じ運命を強いようとする。そして、その考えを植え付けたのは、何を隠そう母アニセヤだ

アニセヤは、表面上はオーシャの意思を尊重しているように見える。だが、果たして本当にそうなのか?魔女になりたくないという言葉には、若さゆえ迷うことがあると諭そうとし、テストを受けさせることには同意しつつも、嘘をついて才能を見抜かせないように仕向けた。二人は生まれる前からスレッドで結びつけていると語り、「一つの力より、二つの力」「二つの力より多くの力」と言い聞かせ、集団への奉仕を説く。一貫して、ジェダイになろうとするアニセヤを魔女の中に引き留めようとはしていないか。極めつけは、「また会える?」という我が子に返す言葉。シミは、「心に聞いてみて」とアナキンを励ます。だが、アニセヤは「無理でしょう」と突き放す。どちらが子供の不安を和らげて、どちらが優しく背中を押しているのかは明白だ。

先ほどアナキンが奴隷である点がオーシャと異なると挙げたが、考えてみるとオーシャも似たような境遇ではあるまいか。宗教団体である魔女たちは、オーシャとメイを何らかの目的に利用としようとしている。そのために、二人を自然に反する力をもって作り出した。クローン・トルーパーが共和国の道具として使い捨てられたように、オーシャとメイも道具として運命を全うすることを望まれている

今までのジェダイ批判の文脈では、ジェダイが正義を振りかざしてフォース感応者の子供を連れて行き独占しようとする姿勢は、家族を引き裂くものではないかと思ってしまう。特に、メイの視点に立てばなおさらだ。確かにジェダイは家族を離れ離れにした。だが、それはオーシャの夢を叶えるためであり、子供を利用しようとする「毒親」たちから助け出した側面もあるだろう

ソルは特殊であるがゆえに自らが家族の中で浮いていた過去、そしてジェダイ・オーダーに入り救われたことについて語った。そう、ジェダイは特別な子供たちを守り助けるために行動しているのだ。この思いは、帝国時代にフォース感応者を逃がす組織「隠された道」ことパスにもつながっていく。メイはソルとは違い周りがフォース感応者であるために浮いてはいないようにも見えるが、実際はその出自とたった二人の子供という特殊さゆえに大人たち利用されようとしている。

本作はジェダイ批判の作品にも見えながら、子供を「さらう」ことへの回答が示された。ジェダイは人さらいのような悪ではない。たとえ不興を買おうとも、子供たちを守るべく、正義の騎士としての役割を全うしているのだ。

マイノリティとしての魔女の正義


勢いに任せて前項ではジェダイを礼賛したが、本作において彼女たち魔女が悪なのかといえば、そうではないだろう。魔女が今このような閉鎖的な思考に陥ったのにも理由がある。魔女は魔女として迫害され、身を守るために隠れるしかなった。魔女という設定からは魔女狩りが、そしてロマンスがほのめかされる女性たちという設定からはレズビアン(≒クィア)が想起され、彼女たちが弱い立場のマイノリティであることがわかる

あまりにもジェダイは乱暴である。魔女たちは自分たちの伝統に従い、双子を次の世代の魔女として育てようとしただけである。そこに突如として現れ、伝統儀式を邪魔するばかりか子供たちを引き渡すように要求してきた。建前上は魔女に許可を求める形ではあるが、ジェダイのテストを受けさせるのは権利だと強弁。ほのめかさずとも、その背景には圧倒的な暴力が垣間見える。選択肢はあるようでないようなもの。特に「魔女」は修道士を要する「教会」の恐ろしさを十二分に知っているだろう。

ジェダイは当然の顔をして無断で血液サンプルを採取する。そして、有望と見るや子供を言葉巧みに誘い、連れて行こうとする。考えようによっては、やはり彼らはハーメルンの笛吹のような誘拐犯なのだ。それを支えるのは、彼らが振りまくおとぎ話。ジェダイを魅力的にみせるその物語によって、子供たちは「夢」を植え付けられ、ジェダイにあこがれてしまう。アコライトが殺そうとしているのは、このような「夢」なのだろう。

マジョリティは常識をも支配する。自分たちに都合の良いルール、物語を作り上げる。同じ力を使っていても、ジェダイが使えば「フォース」としてあがめられ、魔女が使えば「魔法」として忌み嫌われる。それでも、魔女には魔女の論理がある。マザー・アニセヤはオーシャとの最後の会話で自分たちの考えを説いた。「運命は誰かのフォース(力)によって決まるものではない。自ら糸(スレッド)を引き、手繰り寄せるものだ」。運命を「夕日」になぞらえ「変えられない」と説いたシミとは対照的だ彼女たちは、弱者であるからこそ自らの力を持って、少ない仲間たちと互いに支えあい生き残るしかなかった。たった二人の姉妹に愛しあうよう説くことになんの不思議があろうか。二人を結び付けようとするのも、突き放すような言葉で応援するのも、アニセヤなりの愛情であり、正義なのだ。

この一話では、魔女にもジェダイにもどちらの視点にも正義が感じられた。そして、どちらの側にも問題があるのではと考えさせられてしまった。『羅生門』から影響を受けたと言われる本作だが、確かに互いの正義やエゴを描いてくれているであろう。ここから裏切りの展開がなくとも、十二分に味わい深い。

双子の誕生の意味


今回、最も視聴者を驚かせた描写は、オーシャとメイに「父親がいない」点であろう。これは、あの選ばれし者アナキンと同じような誕生の仕方だ。メイとオーシャは、どうやらアニセヤがコリルの胎の中に人工的に作り出した子供であるらしい。『シスの復讐』ではプレイガスが生命を作り出したことが語られており、アナキンも人工的にシスに作られた子供ではないかとの憶測も飛び交った。そして、何を隠そう同作の初期の脚本ではパルパティーンがアナキンを作り出したと彼に語る場面もある。正史のコミックでも、パルパティーンがシミに子供を宿らせたかのようなビジョンが登場し、波紋を呼んだ。

ダース・プレイガスが、メイとオーシャに使われた技術を活用し、アナキンを造るに至る・・・という予想もあるが、私見としてはアナキンの誕生の秘密に踏み込むことはないと考えている。今までも、憶測を呼ぶような描写はなされてきたが、あくまでも解釈の余地は残されてきた。そもそも、どうやってアニセヤが双子を造ったのか明かされていない段階ではファンの妄想が先走りしているに過ぎないだろう。これが魔術なのか遺伝子工学なのか、はたまた違う何かなのかはまだわからない。

また、この双子は「ダイアド」であるとの予想もある。ダイアドとは、『スカイウォーカーの夜明け』に登場した概念であり、強力な絆と力を持っている。シスは、「二人の掟」によってこれを再現しようとしてきたが、上手くいかなかった。例として知られているのは、カイロ・レンとレイだ。こちらはあり得そうな気がしている。メイは、オーシャを背後に置くことで母と拮抗するほどの力を発揮しており、なんらかの特殊性はありそうだ。アニセヤたち魔女は「一人の力より、二人の力。二人の力より多くの力」と語っており、複数であることに拘っていた。このダイアドの力を引き出そうとしている可能性はある。そして、それが光と闇の双子なら、すべてを支配する存在になりうるかも?まさか、オーシャとメイを光と闇に分断するのも計画のうち・・・?

と、妄想を垂れ流してしまった。しかし、「造られた」という設定がある以上、オーシャとメイが双子であることには、何らかの意味がありそうだ。今後もここに注目し鑑賞したい。

残された事件の謎


事件の概要は明かされたものの、その全体像はよくわからない。メイの起こした火で反応炉が爆発したことが事件の原因と思うことも出来るが、火の回りが早すぎる上に、魔女たちが爆発に巻き込まれて全滅したとも考えづらい。そして何より、トービンがメイに詫びながら死を選ぶ理由にはならない。まだ真実は隠されているだろう。

真犯人について、様々な説が取りざたされているので、いくつか紹介していこう。①真犯人はジェダイ説。そもそもジェダイがブレンドクを訪れた理由が不明のままだ。魔女を危険視した?その有望な子供の情報を入手した?いずれにせよ、魔女にとっては穏当ではない訪問のはずだ。前回指摘した通り、ソルの発言はやや信用できない節がある(しかも今回はオーシャをブレンドクに帰すまいとしたように見えた)ので、彼には後ろめたいことがあるのではないか。そして、なぜソルはあの絶好のタイミングで現れることが出来たのか?オーシャが目を覚ました場面で、トービンが顔に怪我を負っているのは明らかに伏線だろう。ジェダイ視点の事件も描かれるはずだ

魔女の内輪もめ説。リーダーであり双子を作り出したアニセヤと、副官で双子を産んだマザー・コリルには明確に対立があった。アニセヤはオーシャにジェダイになる可能性を残そうとし、コリルはなんとしても魔女にしようとした。オーシャの意思を尊重したうえで話し合うとアニセヤは語っていたが、その話し合いで血みどろの戦いになった可能性も考えられる。コリルの死体も画面に映っておらず、怪しい・・・

シス説。シスがメイを手に入れるために一計を講じたという説だ。物語的にも、これが一番ありえそうな気がしている。ジェダイも魔女もどちらもそれぞれの正義があったのに、まんまと利用され、戦いに身を投じてしまったのではないか。こうなるならば、シスの絶対悪と陰謀が強調され、本作に最も求められていたことを満たせることになるだろう

と色々な予想を立ててみたが、当たるとは思っていない。もっと複雑で驚嘆させられるような真実を見てみたい。スター・ウォーズ版の『羅生門』として、「ある視点からの真実」が散りばめられたようなものを・・・。私は期待している。

豆知識

時間経過


今回の出来事と前回までの出来事の間の時間の経過を表すのは、トービンの年齢と怪我、ソルの髪の長さに加えて、インダーラの目の横の印だ。この時点では1つしかないが、16年後の彼女には2つある。

クリーチャー


ブレンドクにおける蝶のようなクリーチャーは、現実世界のクリオネからインスピレーションを得ている。

スパイス・クリーム

メイとオーシャは、スパイス・クリームを食べようとするが、この食べ物の起源はレジェンズ時代のゲームにまで遡る。正史には、ギャラクシーズ・エッジの公式料理本で導入された。

果実

マザー・アニセヤがスレッド(フォース)で浮遊される果実は、『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』でおなじみのジョーガン・フルーツのようだ。

EP1のオマージュ


本作のオーシャを勧誘する流れは、『ファントム・メナス』のオマージュになっている。共和国外から勧誘しようとすること、「父親がいない」こと、血液検査をしてミディ=クロリアン値を測ろうとすること、データパッドに映るものを当てさせようとすること、などはアナキンとオーシャの共通点だ。

Unnatural


マザー・アニセヤは、生命を創造した方法が「不自然な力(unnatural)」によるとほのめかす『シスの復讐』で、パルパティーンが、プレイガスの力について言及する時にも同じ単語が使われており、両者の関係が想起される。

魔女


スター・ウォーズにおける魔女と言えば、『アソーカ』で実写化されたダソミアのナイトシスターだが、本作に登場するアセニヤ率いる魔女の一団はナイトシスターとは別の集団。そのことを明示するために、あえてナイトシスターの象徴である赤い衣装を使用していないそうだ。

日本語の題

原題は「Destiny」という至極シンプルなものなのだが、日本語の題は「運命v」という謎のアルファベットが最後についている。私はミスだと判断しているが、配信から丸一日経っても修正されず・・・


筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei

画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2024年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点

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