【あらすじ・レビュー】アニメ『ビジョンズ』シーズン2(ボリューム2) 【ネタバレ】

2023/05/04

アニメ レビュー

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各国のアニメーション・スタジオが結集して制作した短編アニメ集『スター・ウォーズ ビジョンズ』ボリューム2。合計で十か国のスタジオが、スター・ウォーズを土台に、自分たちの「ビジョン」を紹介する。タイムラインに連なる「正史」ではないが、スター・ウォーズの魅力を再発見できる企画だ。今回も素晴らしい作品が多かった。この記事では、それぞれのあらすじやレビューを書いたうえで、全体の内容を総括する。

「シス」


  • 原題:Sith
  • 制作:El Guiri Studios
  • 国:スペイン
シスを離脱した主人公ローラは、ドロイドのE2と共に、辺境の惑星で自らの絵画を仕上げようとしていた。しかし、身に宿る闇が、作品すらも蝕む。そして、彼女の師であるシス・マスターは、彼女を連れ戻そうと襲撃してくる。激しい攻防の末、ローラは光も闇も自分と自分の作品だと悟り、マスターを撃破した。次のマスターとなった彼女だが、もはや迷いはない。光と闇の二つを受け入れ、作品を完成させると、新たな地へと旅立った。

一話目から、芸術性の高い作品。フォースやスター・ウォーズの戦いを絵画からとらえ直し、見事な映像美に仕上げている。光と闇を受け入れる重要性をシスの観点から描いていたのは興味深い。絵画を通じて悟りの境地に達する描写は、絵画の発展形であるアニメを仕事としている人ならではだ。インクで表現されるシス・マスターとの戦いは、今シーズンのベストシーンだろう。

「スクリーチャーズ・リーチ」


  • 原題:Screecher's Reach
  • 制作:カートゥーン・サルーン
  • 国:アイルランド
労働者の少女ダールは自由を求めていた。広い世界へと足を踏みだすことを夢見て、仲間と共に、「悲鳴の地(スクリーチャーズ・リーチ)」へ出かける。仲間は怖気づくが、彼女はペンダントに導かれるまま勇気を振り絞り、力を覚醒させる。そして、悲鳴を発していたシスの老婆を殺した。空からは神々しい船が表れシス・マスターは、ダールが試験に合格し、ライトセーバーを手に入れたことを告げる。ダールは仲間との別れを惜しみながらも銀河へと旅立った。

二話目にして、予想を裏切る作品。スター・ウォーズやおとぎ話で理想とされてきた、神話学の「旅立ち」が、本作では悲劇への第一歩となる。自由を求める子どもの心は、悪がつけ入る隙にもなる。仲間よりも自由を選んだダールが行きつく先は、孤独に咽び泣くあの老婆なのかもしれない。今シーズンは、テーマの重複が散見されたが、本作の「裏切り」があることで、それぞれが際立てている。

「星の中で」


  • 原題:In the Stars
  • 制作:Punkrobot
  • 国:チリ
原始的な生活を送る少女のティチーナと、姉のコーテンは二人きりで生活していた。母親を含めた同胞は、侵略者である銀河帝国に殺された。「星」となった同胞は厚い排気ガスに阻まれて見えない。綺麗な水もすべて奪われた。姉のコーテンは、戦いを諦めて帝国から水を盗み出す日々を送っている。だが、まだ幼いティチーナは諦めない。帝国を打倒しようと奮闘し、姉を振り回す。姉妹は帝国に追い詰められるが、力を合わせたことで、水のタンクを破壊し、帝国の基地を沈めることに成功する。最後には、綺麗な星空が見え、多くの同胞が二人を見守っていることがわかる。

ストップモーション風の美しい作品。原住民の視点から、侵略者である帝国の悪どさ、自然の偉大さが描かれる。どちらも、チリのスタジオならではの視点だった。チリはスペイン帝国の南アメリカ侵略の延長線にある。スペインは多くの原住民を殺し、彼らの文化を破壊した。このスペインが銀河帝国と重ねられている。そして、本作では水という自然物が圧倒的な破壊力を見せる。日本と同じように、津波による甚大な被害を経験したことがあるからこその描写ではないか。最後に星が見えたことで、二人は死んだ母や同胞が今も見守ってくれていると実感した。キリスト教的ではない、アニミズム的なこの考えは、フォースという宗教観を持つスター・ウォーズと相性が良い。

「だってママだもの」


  • 原題:I Am Your Mother
  • 制作:アードマン・アニメーションズ
  • 国:イギリス
トワイレックの少女アンニは、パイロットの養成学校に通っている。今日は家族レースの日だが、ママを恥ずかしく思う彼女は、あえて伝えなかった。しかし、ひょんなことから二人はレースに参加することになる。二人(とドロイドのZ1)は力を合わせ、アンニはママから教えてもらった「ライロス・ロール」で、優勝をかっさらう。二人の距離は無事に縮まった。

『ウォレスとグルミット』で有名なアードマンが制作した一話。アニメーションの出来栄えはもちろん素晴らしいが、各シーンにクスっと笑える小ネタが仕込まれていて、見ていて楽しかった。ウェッジやマンダロリアン、デス・スターといったメジャーなネタから、ヘラのポスターや手足を引きちぎるウーキーなどマイナーなネタまで、とにかく盛沢山。物語も王道であり、軽い気持ちで何度も見返したくなる。ブルーカラーの家と上流階級の家のレースという、家の「格」が対立軸になっている点は、階級社会のイギリスらしい。

「ダークヘッドへの旅」


  • 原題:Journey to the Dark Head
  • 制作:スタジオミール
  • 国:韓国
惑星ドルガラクでは、時を超えて事象を観察できる人々が、歴史を書き記していた。少女アラは、戦争を止めようとしない同胞たちの態度に苛立つ。成長すると、アラは「ダークヘッド」を切り落とせば、戦争の潮目が変わるとジェダイ上層部を説得し、若きジェダイのトールを派遣してもらう。トールは、シスのビーチャンに師匠を殺され、怒りと恐怖を覚えていた。トールとビーチャンはダークヘッドの近くで再戦する。アラは二つあるうちの「闇の頭」だけを落とそうとしたが、真実に気づく。光も闇も混ざり合って存在している。どちらとも「闇の頭」であり、「光の頭」であるのだ。そして、自身の中に存在する闇の感情に苛まれていたトールも同じことに気づく。絶望に終わりはない。だが、同じように希望にも終わりはない。どちらも受け入れたアラとトールは、ビーチャンを打倒した後、次の一歩を踏み出した。

韓国のスタジオが制作した本作は、ジャパニメーションに近い。日本のアニメ好きなら、心躍る豪華な作画だ。舞台背景にも東洋思想が垣間見える。俗世間から切り離された惑星ドルガラクの姿は、仙人のよう。そして、光と闇が切り離せないという思想は、陰陽の考えだ。絶望に終わりはないが、希望にも終わりがないという考えは、戦争を取り扱い続けるスター・ウォーズにとって一つの答えである。ここら辺は、無常の思想にも繋がっているだろう。やはり東洋思想はスター・ウォーズと相性が良い。あと、韓国語版のアラの声もかわいいので、要チェックだ。

「スパイ・ダンサー」


  • 原題:The Spy Dancer
  • 制作:Studio La Cachette
  • 国:フランス
キャバレーの主ロイは、華麗なダンサーであり、スパイでもある。帝国軍御用達という立場を利用して、同胞種族の反乱計画のために情報を収集していた。計画達成目前のある日、いつものように華麗に舞っていたロイは、ある帝国軍将校を発見する。杖を突いたその男は、彼女から息子を奪った憎き仇のようだ。取り乱し、激昂した彼女は将校に襲い掛かる。だが、その顔はあの将校ではなく、どこかで見た別の顔だ。少女エティスや、ジョンの助けもあり、ロイは将校と二人きりで会話をする。そして、将校が自分の息子だと明かす。将校はその場で事実を受け入れることはなかったが、発信機を仕込んだ装飾品を手渡すことは出来た。これで、ロイはいつでも息子を見つけられる。そして、将校も自分の額に目をやり、奪われた角を思い起こすのだった。

「星の中で」と同じように、侵略者である銀河帝国が際立った一話。キャバレーを舞台にしているのは、フランスのアニメならでは。本場ということもあり、さすがのオシャレさが醸し出されていた。侵略者である帝国は、我がもの顔で街に入りびたり、果てには赤子とそのアイデンティティを奪って「同化政策」を企んでいた。この辺りは、フランスがレジスタンスとしてナチスに抵抗した歴史や、フランスがアルジェリアを植民地支配していた史実がモデルになっているのだろうか。フォースや若者の旅立ちばかりが扱われて食傷気味になっていた中、個人のスキルを活かしたスパイ活動と、息子への愛という(ヴェイダーの頃からからの)テーマを持ってきた本作は、新鮮に思えた。

「ゴラクの盗賊」


  • 原題:The Bandits of Golak
  • 制作:88 Pictures

  • 国:インド
ラニは特別なフォースの力を持つ女の子。兄のチャルクは彼女の身の安全を守るために、とある場所へ送り届けようとする。道中の電車の中で、ラニが力を使ってしまったことで、ひと騒動おこるが、反乱者の襲撃が運よく重なり、切り抜ける。しかし、たどり着いた先で、尋問官に追いつかれてしまった。尋問官はラニを攫おうとするが、老婆がライトセーバーで尋問官を倒す。老婆は、ジェダイだったのだ。ラニは身を守るために老婆に保護されることになった。チャルクは、習慣になっていた「盗賊の契り」で、ラニに別れを告げ、思い出の筆を奏でる。

インド文化が散りばめられた一話。登場人物も、建物も、音楽も、全てがインド風であった。そういう惑星がスター・ウォーズの銀河にはあると受け取ることが出来る。エイリアンの造形を含め、アニメーションの質が素晴らしく、『クローン・ウォーズ』S7にも匹敵するほどだ。ストーリー自体は王道であったが、「盗賊」や「笛」といった要素が、別れの辛さを際立たせる。正史の作品にしても良いのではないだろうか。

「穴」


  • 原題:The Pit
  • 制作: D’art Shtajio、ルーカスフィルム
  • 国:日本、アメリカ
帝国は、連行してきた人間を強制労働させ、カイバー・クリスタル鉱石を手に入れようとした。労働は長期にわたり、「穴」はどんどん深くなっていく。ある日ようやく採鉱が終わったと思ったら、人々は穴の奥底に取り残されてしまった。諦めムードの中、青年クラックスは穴を這い上がり、近くの街へと助けを求めに行った。だが、街の人々は耳を貸そうとしない。そして、クラックスは帝国に捕えられた上に、穴に投げ込まれ、死亡した。彼からカイバー・クリスタルを託されていた少女エウレカは彼の信念を叫ぶ。「光に従え!」「光に従え!」。労働者は声を合わせて叫び、やがて町の人々へと届いた。青年の言葉が真実だと知った人々は、穴へ向かい、帝国を追い払い、労働者を助け出す。穴を出た少女の手のカイバー・クリスタルは、希望の光をともす。

日本のアニメスタジオD’art Shtajioが制作した回。ただし、D’art Shtajioは黒人を扱うスタジオであるため、ジャパニメーションぽさもありつつ、そうでもない部分も多い。本作のテーマは、すばり「労働者」。街の人々は、労働者の犠牲の上で自分たちの生活が成り立っていることを自覚していない。しかし、労働者が団結して声を上げさえすれば、彼らも思いやりを持った行動が出来る。穴という隔離された場所を視覚的に示すことで、忘れられた労働者というテーマが上手く強調されていた。

・・・が、スター・ウォーズの要素が物語の邪魔になっているように感じた。まず、帝国は「エイリアン差別」の組織であるのに、「人間差別」の描写になっている点が目に付く。また、「街の人々」と「労働者」の間に、「帝国」という第三者が入ることで、テーマがブレている。カイバー・クリスタルで恩恵を受けていたのは「街の人々」なのに、悪役の「帝国」を追いだせばハッピーエンドでいいのか?それは、真に「街の人々」が「労働者」への搾取を反省していることになるのだろうか。帝国というスター・ウォーズの要素を残したのが、邪魔になっているように感じる。あと正直、"使い終わった"労働者の手錠を外して解放した帝国が、間抜けに見えて物語にノリ切れなかった。

「アーウの歌」


  • 原題:Aau's Song
  • 制作:triggerfish
  • 国:南アフリカ
惑星コルバは、カイバー・クリスタルの産地だが、シスによってクリスタルを汚染されてしまっていた。主人公の父アバトは、種族の慣習に則りクリスタルを浄化するジェダイのクラトゥに協力していた。一方、アーウは歌うことが大好きな女の子。しかし、その歌はクリスタルを暴走させる「力」を持ち、歌うことを禁じられていた。ある日、アーウは導かれるようにクリスタルの洞窟へ赴き、思うままに歌ってしまった。クリスタルは暴走する。クラトゥがなんとか彼らを助け、思わぬことが起こる。アーウの歌声により全てのクリスタルが浄化できたのだ。クラトゥはアーウに才能を見出し、彼女を銀河へと連れて行く。

可愛らしいアニメーションと、綺麗な歌声を楽しめるストップモーション。歌うことが禁じられていた少女が、能力を覚醒させて歌で人々を救うようになるという展開は、おとぎ話のようだ。スター・ウォーズのオタクとしては、当初非難轟々だった「シスがカイバー・クリスタルを出血させて赤くする」という設定が、この物語で昇華されていて嬉しかった。南アフリカが、ダイヤモンドという「クリスタル」の産地であることから着想を得た物語なのだろうか。

総評

いずれも完成度の高いアニメーションであり、見ごたえがある短編集だった。「ジャパニメーションとスター・ウォーズの融合」だったボリューム1とは少し異なり、「各国の文化とスター・ウォーズの融合」が目指されているように感じた。ボリューム1の「ローニン」が特に高待遇であることを鑑みると、ルーカスフィルムが欲しているのは、各国・各文化の「ビジョン」なのかもしれない。

『ビジョンズ』は二次創作を公式のもとで行うという挑戦である。スター・ウォーズ公式は、セレブレーションや「スター・ウォーズの日」といったファンのイベントを取り込み、発展させることを得意としている。『ビジョンズ』も成功例になりつつあり、よりファンダムが盛り上がる一助になっている。

一方で、多少のネタ切れ感は否めない。少女が師匠を見つけて旅立つ物語が三話、帝国が抑圧者である物語が四話、シスやジェダイが登場する物語が六話、と同じようなテーマを重複して扱ってしまっている。これらがスター・ウォーズの大きな魅力であることも、被っているからこその面白さがあることもわかるが、調整してもっと多様な作品を含む短編集にしてもよかったかもしれない。

ボリューム3があるかはわからないが、次は「あのクリエイターのスター・ウォーズへのビジョン」を見てみたい。あのクリエイターなら、どんなスター・ウォーズ作るのかと、ファンの間ではよく話題に上る。その答えが提示されたら、なんと素晴らしいだろう。新たなファン層も獲得できるだろう。「非正史」であるビジョンズには、無限の可能性がある。

『ビジョンズ』ボリューム2は大成功であった。私のお気に入りは、圧倒的な映像美の「シス」、アニミズムが際立つ「星の中で」、東洋思想を基にした「ダークヘッドへの旅」だ。日本の有名スタジオが参加したボリューム1と異なり、日本で話題になっていないのが惜しい。今回新しくもたらされた「ビジョン」が、今後のスター・ウォーズにどう影響していくのかを楽しみにしている。


筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei

画像は、『ビジョンズ』Volume2(2023年、ルーカスフィルム)より

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